やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

太平洋島サミット2012ー海洋外交の行方

太平洋島サミット2012ー海洋外交の行方

 こうやって太平洋島サミットへの提言に対しいろいろコメントをさせていただいているのは外務省から意見をください、とのメールをわざわざいただいたからなのである。

 なんでも笹川会長のアドバイス大洋州課の皆さんにはこのブログを読んで頂いているのだそうだ。

 実は昨年の今頃太平洋島サミットに海洋問題を議案にあげましょうと、羽生会長に進言し案も作成していた。但し、元々このサミット自体がプルトニウム太平洋海上輸送の島嶼国対策であり、漁業問題では水産庁の宮原次長が監視船の提案をするまでは資源管理という姿勢が弱かったので、無理だろうと諦めていた。

 ところが、蓋を開けてビックリ。海洋外交が新たな太平洋島嶼国政策の中心になっているではないか! 

 昨日寺島常務からご指摘いただき「海洋外交」に関する部分を書き出してみた。

(1) 日本における海洋外交の新たな出発点にするという認識と覚悟で取り組むことが重要となる。そこで、

(2)地域の海洋秩序を担うために、太平洋島嶼国への関与強化を図りはじめた米国を、次回太平洋・島サミットに招待するよう検討す べきである。

(1)海洋外交としての太平洋・島サミット

海洋国家である日本にとって、南方の広大な海域に位置する太平洋島嶼国が安定した民主主義国家として持続可能な発展を遂げることは、安全保障上も死活的に重要である。こうした観点から、第6回サミットの機会に海洋外交に関するイニシアティブを打ち出し、サミットを新たな海洋外交の出発点と位置付けるのは極めて意義深い。そのために、サミット冒頭で総理が「我が国の海洋外交」に関する政策方針スピーチを行い、日本の対海洋姿勢を明確に示すべきである。

(2)太平洋・島サミットへの米国の参加

太平洋島嶼地域の海洋秩序を担う米国は、この地域の戦略的重要性を再評価し、従来以上に関与を強化しつつある。例えば、本年の太平洋諸島フォーラム(PIF)域外国対話には、これまでで最高レベルかつ最大規模の代表団を派遣した。 こうした状況を踏まえ、米国との連携強化に向け、次回サミットに米国を招待するべく検討する必要がある。

3 国際社会に向けた広報

日本が始めた独自のイニシアティブとしての太平洋・島サミットを国際社会に対して広報することは、途上国の開発に向けた日本の取組をアピールする上でも非常に有意義である。特に、太平洋・島サミットを通じて日本が太平洋という広大かつ重要な海域の平和と繁栄に積極的に貢献している事実は国際的にもっと知られてよい。その意味でも、次回サミット冒頭では、総理が海洋外交に関するスピーチを行い、これを世界に発信することで、海洋国家日本による太平洋・島サミットという取組を世界にアピールすべきであろう。

 日本の対太平洋島嶼国政策としての海洋外交とは、米国と地域の海洋秩序を構築することなのである。まさにこのブログの愛読者が書いたとしか思えない内容である!

 2008年から日本財団笹川平和財団が行ってきていることなのだ。

 但し「日本が太平洋という広大かつ重要な海域の平和と繁栄に積極的に貢献している事実」はどの事実を指しているのだろう?

 日本の貢献といえば日本財団笹川平和財団海上保安庁の協力を得て進めているミクロネシア海上保安事業くらいのはずで、日本の貢献はこれからではないか。

 1997年に開始したサミットの大スポンサーであった電事連がこのサミットから撤退するとの噂も聞いている。”海に護れてきた日本が海を護る日本”に生まれ変わるよいチャンスである。

 笹川太平洋島嶼基金設立の背景には大平正芳元首相の太平洋への思いがあった、と伺っている。 電事連の後押しはない。笹川良一名誉会長はプルトニウムの輸送に懸念を表明している。(『くじけてなるものか 笹川良一が現代に放つ警句80 』参照)

 環太平洋構想を発表した大平正芳元首相。首相就任前の1978年に自身でまとめた「大平正芳の政策要領資料」に始めて「環太平洋連帯」という言葉が出て来る。英文では”Pacific Ocean Community”と書いているのだ。大平首相の胸には島嶼国の存在があったが、今APECにはPNG以外島嶼国の姿はない。

 

 先日開催された東アジアサミットでは日本の提案「東アジア海洋安全保障フォーラム」は不発に終わったとのニュースを見た。ここは南の楽園、世界経済や世界政治にほぼ影響を与えないという認識を持たれている太平洋島嶼国で提案してはどうか。大平首相の遺志を継いだ”Pacific Ocean Community Forum”を立ち上げたらどうか。

 太平洋島サミット参加者はPIF(NZ豪)+日米同盟。反対する国はない。それに島嶼国で軍隊を持つのはトンガ、フィジーパプアニューギニアだけなので自ずと法執行機関が主役となる。

 海洋分野における非伝統的安全保障が新たな日米同盟の方向を示すことになる。下記の笹川会長のワシントンでのスピーチを実現する事にもなる。

東京・ワシントン対話 オープニング・スピーチ(原文・英語)2011年9月7日 於:ワシントンDCより抜粋

(前略)そこで、私はこの会議の最終目標を「5年後、日米両政府に対して日米関係の目指すべき新たな姿に関する政策提言を行う」と設定し、会議を毎年1回ずつ開催することを構想しており、会議における議論は、大局的かつ戦略的な政策提言につなげていきたいと考えております。そのような中長期のテーマの1つとして、私たち日本財団がこれまでとりくんできた「海洋」分野における日米のパートナーシップの在り方も重要なテーマとなりましょう。ご存じの通り、太平洋島嶼国の周辺海域管理の問題は大変重要性を増しています。この問題に対処するには、専ら軍事面に重きを置く伝統的な安全保障の考え方にとどまらずに、テロや海賊行為、大量破壊兵器の拡散への対応も考慮し、広い意味での海洋監視の能力向上を図ると共に、多国間での協力を深めていくことも必要になるでしょう。その際には当該太平洋島嶼国はもとより日米と心を同じにする国々と協力して対処することもこの広い海域においては重要になります。今年6月にカート・キャンベル国務次官補が太平洋島嶼国9カ国を歴訪された背景には、そのような情勢があるのではないかと察するところです。一方で、インド洋・アジア海域においてもマラッカ・シンガポール海峡の航行安全など、中長期的に重要性を増していくと考えられる問題が依然として残されております。この海域に関しても、日米と多国間での協力が必要になるでしょう。(後略)

 次回は「日米コモンアジェンダがコンフリクトアジェンダにならないために」、を書きます。