やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

Yusuf判事の自決権に関する議論

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 Antonio Cassese博士が編集した "Realizing Utopia: The Future of International Law" という本の中に、あのチャゴス諸島判決で国連決議1514を根拠に英国の不当性を指摘し、モーリシャス政府にチャゴスを返還する判決を下したソマリア出身のAbdulqawi A. Yusuf判事の論文がある。自決権に関する短い論文だ。

 この本は2012年出版とあるがCassese博士が亡くなったのが2011年。Cassese博士最後の書籍なのかもしれない。

 "The Role That Equal Rights and Self-Determination of Peoples can Play in the Current World Community"と題する論文では自決権はレーニンとウィルソンの2つの他に、第3の理論があるという。レーニンは脱植民地化の外部からの自決件で、ウィルソンは自ら政府を選ぶ権利としての内部からの自決権。3つ目が政治、社会、文化の発展を自由に選べる自決権だという。この3つ目の自決権については初めて聞いた。

 Casses博士の1995年の自決権を議論した本の事も触れていて、あれから15年経って、 Casses博士の指摘は杞憂であるとしている。すなわち、自決のために脱植民地化をしてもその新たな社会には民主主義が成立していない、躓きの石(stumbling block)はすでに途上国には存在していない、という楽観的な議論をしているところは疑問に思った。

 自決権に関するこういう解釈をする判事が、あのチャゴス問題を扱ったのか。論文にはアフリカの例が多く出てきて話からない箇所が多く、私が理解できていないだけだと思う。チャゴスに関してはモーリシャスという小島嶼国の存在自体が、太平洋の島嶼国の現状を見てきた私には危うい、躓きの石に見えてしまうのだ。

 話が変わるがYusuf判事、南極捕鯨裁判では小和田裁判官と共に日本を支持してくれているようだ。まだ反対意見は読んでいない。

(一財)日本鯨類研究所 : 豆知識