やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

国際機関をめぐる現代的位相

 IWCの交渉官として長年関与されてきた森下丈二氏の一番新たらしいペーパーが国際問題2019年11月号に掲載されていた。巻頭が中谷和弘教授の「国際機関をめぐる現代的位相」で、両方読ませていただいた。

  IWC脱退を巡っては国際法違反とメディアやSNS に書かれていたので、一体どのように国際違反なのか少し関連の資料を読んだことがある。森下氏の報告書もいくつか読んだがここに掲載してある「国際捕鯨委員会(IWC)と日本の脱退」は、さらなる裏事情を知ることができる内容であった。

 具体的にはオーストラリアのICJ訴訟の背景には、人気が落ちる反日親中ラッド政権の常軌を逸した政治的動機があった話だ。それからICJの捕鯨裁判の判決は実はほとんどが日本の主張を支持したものであったことなど、判決文を読まないとわからないことだ。政府は、具体的には菅官房長官は「判決に従って捕鯨を継続する」と言えばよかったのではないか?多くのメディアは日本が裁判に負けてもう捕鯨はできない、と書いているし、専門家もそのようにSNSで発言している。

 もう一点気になったのが捕鯨をテロリストと呼び、動物愛護のイデオロギーが指摘されつつもその背景が触れられていない点だ。限られた紙数の中では無理だったのかもしれないが、UNLCOS65条の背景に米国の動物愛護運動があったことは事実である。海洋権益の事も一切触れられていない。

 中谷氏の巻頭文は最後にサイバーセキュリティの国際機関の話が出てきて一瞬ギョッとした。米国一極支配のインターネットガバナンスを崩壊させたのがITUとUNである。WSIS- World Summit on the Information Society という。ITUは日本人事務総長内海氏の音頭であった。米国一極支配が崩壊しインターネットがロシアや中国の手に落ちたことでサイバーセキュリティの問題が加速したのである。

 11月、国連総会でロシアが提案したサイバーセキュリティに関する決議が通過したばかりである。ロシア、中国と途上国主導のサイバーセキュリティを司る新たな国際法の提案である。もちろん米国はじめ西洋諸国は反対したが数の力で可決されてしまった。

 国際組織の重要な課題。森下、中谷両氏は触れていないのだが、世界の人口の2%弱が200前後の主権国家、自治領の半分の投票数を持っているという恐ろしい現実。これは私の論文で書こうとしていることだ。