やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

八木氏と小和田氏の捕鯨問題を巡る意見

捕鯨問題は30年に渡って太平洋を専門にする私にとって通奏低音のような大きな問題だ。あまりにもイデオロギーが強くハイポリティクスなので触れたくはない、しかし避けては通れない問題。これに果敢に取り組み世界の注目を集める映画「Behind THE COVE ~捕鯨問題の謎に迫る!~」を制作したのが八木景子氏である。

パラオに入ったシーシェパードを2011年追い出した経験が私にもあり、いつかワトソンに会う機会があったら「Love and Peace よ。NOT Love and Violence」と言ってやろうと思っていたので八木さんがワトソンと歓談している姿に思わずオオと感動した。

その八木さんが記事を書かれたとのことで早速拝見。そこにあの小和田氏の発言が引用されている。「国際司法裁判所ICJで日本は訴訟を起こすことが出来たと記者会見で述べている。」

日本古来のクジラ食文化:守れないのは、シーシェパードではなかったのか!?(八木景子) - 個人 - Yahoo!ニュース

引用されていた記者会見も早速拝見。

46分あたりの幹事長からの質問に答えている箇所だと思われる。

「裁判官は弁明せず」と言いながら小和田氏はかなり詳細を解説している。小和田氏の反対意見はまだ読んでいないが、これは必読だと思う。理解出るかどうか不安だが。

だいたい下記のことを述べられている。

「日本は数を減らしたので、裁判に持って行ってこれならどうですか?と聞いてみなければわからないわけですが。結論的に言って。そこは未解決の問題として残っている。」

「脱退しないで裁判所の判決を恣意的に解釈して・・は当事国とし許されることではなく、裁判所にこれならどうですか?ともう一度持っていくことは日本なり豪州なりがやろうとすればいくらでもできることで・・」

「ただし裁判所が客観的合理的ではないとした800(?)に対し、新しい数字は客観的合理的であることを証明するものでなければならない。」

ここを八木さんは「国際司法裁判所ICJで日本は訴訟を起こすことが出来たと記者会見で述べている。」と書かれたのではないだろうか?さらに八木氏は「オーストラリアを相手取って訴訟を起こせば、IWCが条約違反を犯していることや、生態系を崩しかねないほどクジラの資源が南氷洋に豊富にあることを世界に示せる絶好のチャンスであった。」と書いているので、小和田氏が言う「裁判所にこれならどうですか?ともう一度持っていくこと」とは違う話のように思える。

小和田氏が言うのは下記の国際司法裁判所規程の60、61条のことと思われるがこれは小和田氏に伺わないとわからない。

第六十条

 判決は、終結とし、上訴を許さない。判決の意義又は範囲について争がある場合には、裁判所は、いずれかの当事者の要請によってこれを解釈する。

第六十一条

  1. 判決の再審の請求は、決定的要素となる性質をもつ事実で判決があった時に裁判所及び再審請求当事者に知られていなかったものの発見を理由とする場合に限り、行うことができる。但し、その事実を知らなかったことが過失によらなかった場合に限る。
  2. 再審の手続は、新事実の存在を確認し、この新事実が事件を再審に付すべき性質をもつものであることを認め、且つ、請求がこの理由から許すべきものであることを言い渡す裁判所の判決によって開始する。
  3. 裁判所は、再審の手続を許す前に、原判決の条項に予め従うべきことを命ずることができる。
  4. 再審の請求は、新事実の発見の時から遅くとも六箇月以内に行わなければならない。
  5. 判決の日から十年を経過した後は、いかなる再審の請求も、行うことができない。

国際司法裁判所規程

 

小和田裁判官の反対意見(英和)

https://www.icj-cij.org/files/case-related/148/148-20140331-JUD-01-01-EN.pdf

https://www.icrwhale.org/pdf/10-A-aOwada.pdf

 

この小和田氏の記者会見は日本のメディアに捕鯨を含む国際裁判をきちんと理解し国民に伝えて欲しい、と言う意図だったと思う。小和田氏が述べた中で「鯨をとってはいけないと裁判所は言っていない」と言う箇所が、私は一番重要だと思う。西洋の、特に豪州のメディアは豪州が勝訴した通り日本はとってはいけないと報道し、日本の学者やメディアまでも日本の科学調査捕鯨継続と、IWC脱退を批判をしていた。IWC脱退の意味も小和田氏が述べているように理論的にメディアが説明できると良いと思う。

日本は90年前、国際連盟を脱退しても委任統治領だった南洋群島をベルサイユ条約に従って運営・管理してきたのである。国際組織の脱退はその枠組みから完全は外れる事を意味しない。

(本件はtwetter accountのムーミンパパさんに色々とご助言をいただきました)