IWC脱退を巡って、南極捕鯨からの脱退と沿岸捕鯨再開の綱引きを取り上げ、日本が妥協していれば脱退する必要はなかった、という論調が多く見られる。例えば下記の記事だ。
IWC脱退の怪 2018.12.30 高成田 享
「南極海での捕鯨を縮小ないしは撤退する代わりに、日本沿岸での商業捕鯨を認めさせる。このアイデアは、これまで日本の政府内でも日米・日豪の政府間でも、水面下で検討されてきたIWCでの「落としどころ」でした。これが実現できなかったのは、日本国内では、南極海からの撤退は認められないとする捕鯨推進派の議員の声が強く、米国や豪州では、すべての捕鯨に反対という反捕鯨団体の声が強かったためです。」
これに対し、ビハインドザコーブの監督八木さんが水産庁長官にインタビューしたところ下記の回答を得た。
“元捕鯨大国”のアメリカが「日本だけ」を非難する根深い事情 3/18(月)
「日本のIWC脱退後、噂に惑わされないよう私は、捕鯨を管轄する水産庁の長官に取材を行ないました。
南氷洋での調査捕鯨を中止する代わりに日本近海での商業捕鯨の再開を認める案は以前にもあった、と一般的に伝えられています。しかしそれは事実でない、と初めて知りました。」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190318-00010000-voice-pol&p=2
高成田氏によれば「水面下」での議論であったので「案」までにはなっていなかった可能性がある。このような国際交渉では「案」を作成するまでの交渉過程が大きいのだ。
公式文書を探しが見つからない。水産庁ウェブに下記の2つの委員会議事録を見つけた。
撤退したところでシーシェパードの妨害はある、ということで撤退を反対している。今回も沿岸捕鯨を妨害をシーシェパードは宣言している。
第3回 鯨類捕獲調査に関する検討委員会議事概要
.日 時:平成23年6月1日(水)
○高橋全日本海員組合水産局長
「また、先ほどから出ておりますとおり、ほかの漁業に関しても妨害活動を行うということが懸念されます。危険な妨害活動を回避するため、南極海の 調査捕鯨から撤退することによって解決する問題ではないと思っております。 かつて毅然とした態度をとらなかったことで、公海における大規模流し網漁 業に対して、当時はグリーンピースの反漁業キャンペーンが強力になされま して、公海流し網漁業は全面禁漁ということになりました。」
http://www.jfa.maff.go.jp/j/study/enyou/pdf/gizigaiyo3.pdf
水産政策審議会 第50回資源管理分科会議事録 平成23年 2月23日
○高橋特別委員
「シーシェパードは日本が南極海の調査捕鯨から撤退しても別 の調査捕鯨に対して、ほかの漁業に対しても攻撃を加えるのだというような示唆をしてお ります。ここで撤退をするということではなくて、枝野官房長官が申し上げているとおり、 農林水産省のみならず、各省を横断したような形で対応していくという力強い記者会見も ありました。その発言に恥じないようにきちんとした対応し、今後の継続的な調査捕鯨を 実施していくことを強く要望しておきます。」
http://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kanri/pdf/dai50kai_gijiroku.pdf
私はIWCに留まりながらの撤退は、間違ったメッセージを、即ち科学的根拠がないにも拘らずIWCを認めてしまうことになるので、 IWCの正当性がないことを明確にした撤退は正解だと思う。それに南極での調査活動は続いている。 UNCLOS65条の適切な国際機関を複数形にしたのはIWCだけが「適切な国際機関」(appropriate international organizations) ではない可能性を残したからであろう。そして複数形を提案した日本は、他の「適切な国際機関」を「通して」捕鯨活動を継続すれば良いのだ。
<追記>
早速貴重な情報を頂いた。
森下 丈二、岸本 充弘 商業捕鯨再開へ向けて −国際捕鯨委員会(IWC)への我が国の戦略と地方自治体の役割について−。下関市立大学 地域共創センター年報 第11号
ここに「議長見解として としてのパッケージ案を提示」とある。67ー68ページ。これが案とみなせるのかどうか?交渉のための叩き台であろう。また反捕鯨団体も反対していた。これを読むと南極を撤退して沿岸捕鯨の道をと書いている人は何も知らずに議論してことが明確である。