やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

同志社寺田教授の「ライン」が「派閥」に化ける時

産経の小森記者が取り上げたCSISの日本に関する報告書。SNSで話題になっている。

 

「米有力研究所が安倍首相側近を「対中融和派」と名指し」

2020.7.27 産経

https://www.sankei.com/world/news/200727/wor2007270014-n1.html

 

話題になっている箇所は小森記者が示した「二階・今井派」という箇所。筆者のデビン・スチュワート氏の指摘かと思いきやなんと同志社大学法学部の寺田教授の2018年の英文論文からの引用であった。

 

「Nikai-Imai faction なんて聞いたことがない。」

と官邸周辺からの声。さらに、

「早川さん、あの寺田教授と知り合い?あの論文どう思う?」

とまた別の方から照会があったのだ。私が現在同志社大学法学部に在籍しているのをご存知。寺田教授、一度ご講演を聞く機会があったような。。でも存じ上げない。

学者が何気なく呟く言葉、何気なく研究室で書く言葉が世界を奈落の底に落とすことがあると、アイザイア・バーリンが書いているのを読んだばかりだ。

寺田教授の論文は2018年8月の日米研究インスティテュートに掲載されている。原文は日本語で、英訳もされており、CSISの報告書は英文の方を参照している。

 

「トランプ「貿易」戦争と日中関係の雪解け:地域統合の持つ国際政治効果」

http://www.us-jpri.org/voice/usji-voice-vol-38

 

”Trump’s Trade War and the Thawing of China-Japan Relations”

http://www.us-jpri.org/en/voice/usji-voice-vol-38

 

まずはトランプ叩きから始まる。2018年、そんな議論が主導していた時代だったか?

コロナ、香港、ウィイグル、スパイ活動、中国宥和に動く世界を変えたのは中共自身だ。

「トランプ大統領の発したメッセージといえば、インド太平洋地域にて二国間通商協定を結びたいという希望のみであり、結果、アジアにおけるアメリカの果たすべき役割について大きな疑念を残すこととなった」

「トランプ政権の利己的な米国第一主義に基づく対外政策の遂行は、多くの東アジア諸国にとって有効な代替案のないままに各国の中国傾斜に拍車をかける格好となるなど、中国が力を入れる一連の経済協力の進展をさらに促す結果をもたらしている。」

 

次に日中関係の強化が指摘されている。

「トランプ政権が中国と互いに一歩も引かない貿易戦争にのめりこむ間に、日本は中国との関係強化に乗り出したことは従来の安倍政権の外交方針の変化への一歩と言える。」

 

そして二階今井の登場だ。

「・・・「日本は協力していきたい」と2017年6月、安倍首相は初めて公式にBRI構想への協力姿勢を、条件付きながらも表明した。・・・この方針転換に一役買ったのは二階俊博自民党幹事長と、今井尚哉総理秘書官である。」

 「自民党内でも特に親中派と目される二階氏は、2017年5月に北京で開催された一帯一路フォーラムへ出席した際、安倍首相からの親書を習国家主席へ手渡し、」

 

そして問題のNikai-Imai factionの箇所。

「中国との経済関係を重視する二階・今井ラインは安倍政権の外交政策決定過程において主要な役割を担うようになる。」

 

寺田教授は「二階・今井ライン」書いているのだ。これが英訳でNikai-Imai factionになり、日本語に再度翻訳されて「二階・今井派」に。。 「ライン」が「派」に化けたのである。

寺田教授はラインを派閥という意味では書かなかったであろう。まさかCSISのレポートに取り上げられて、産経新聞にそれが取り上げられ、意図しない(多分)展開になっているわけだ。英訳は大崎祐馬氏(同志社大学大学院)という大学院生に助けてもらったらしいが、英訳の責任は寺田教授にある、と書いている。当然だが。まさか英文論文を自ら書けないはずはないと思うが。。

 

本当はここでこのメモは書き終えたいが、私は個人的にこの論文を読んで衝撃を受けている。

下記の箇所だ。

「自民党内でも特に親中派と目される二階氏は、2017年5月に北京で開催された一帯一路フォーラムへ出席した際、安倍首相からの親書を習国家主席へ手渡し、」

 

2017年5月、私は永田町の議員会館で古屋議員始め国会議員に、中国が太平洋でどんなことをしているか2度も講演をしていたのだ。そこに外務省の四方参事官がいて二階議員の名前を出していた。その意味が3年後の今やっとわかった。

島嶼議連・海洋議連、そして安倍政権のインド太平洋構想に私がどのように関わったか、詳細は今度出る本に書きました。