やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ソロモン諸島台湾断交とアメリカ外交

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ちょうど今から2年前の2019年9月。ソロモン諸島が長年外交関係のあった台湾から中国に変更した。それは突然のニュースで、なによりも国連総会でソガバレ首相とペンス副大統領との会談を予定していた米国にとっても驚きであったであろう。この会談はキャンセルされた。ソロモン諸島に引き続いてキリバスも中国へ外交関係を変更し、6カ国あった台湾を支持する太平洋島嶼国は一気に4カ国になった。

先日のウィップス、パラオ大統領のインタビューでは、中国外交官からSky is limitという説得を受けていることが明らかにされたように、中国はあらゆる支援を約束してくれたのであろう。また豪州メディアは、ソロモン諸島、キリバスでは中国支持を条件に国会議員が一人数千万円の賄賂を受け取った話を暴露している。

 

しかし、米国はトランプ政権下で明確なインド太平洋戦略を示し、国家安全保障局のマット・ポッティンガーが2019年3月ソロモン諸島入りもしている。周到な外交対策が取られているのかと思っていたが、他方でソロモン諸島政府の突然の動きに疑念も感じた。太平洋島嶼国の複雑な文化や歴史を知るには、いくら優秀な米国の官僚でも数年は必要である。島の人々は支援を必要とするものの、外から来た人々の上から目線の態度には敏感に反応する。

 

そんな私の疑念を証明するような、ソロモンに駐在された遠山茂大使の講演記録をたまたま見つけた。講演テーマは「ソロモンと中国の国交樹立」。ソロモン諸島が国交を中国に変更した第二の理由に米国の横柄な態度をあげている。長くなるが引用したい。

 

第二の背景として、米国が台湾との関係を維持することについて、ソロモン側に必要以上の圧力をかけたのではなかろうか。周知のとおり、第2次世界大戦においてソロモンは同盟国側の一員として米軍とともに日本と戦った関係であったが、戦後、ソロモンにおける米国のプレゼンスは極めて限定されたものであった。しかるところ、この数年になって中国の太平洋地域への進出を牽制する目的でソロモンへの急接近を図った。ソロモンは弱小な後発途上国であるが、国家としての自尊心は人一倍強いところが見られる。希薄な関係にあった米国が突然に大型の援助をちらつかせつつ、台湾との関係維持を迫ったことについて、ソロモン側は、これは本質的には米国側の戦略的な都合によるものであり、自分たちはコマのように扱われているとの受け止めをしたようであり、事実そのような反発を小職に述べた政治家も少なくなかった。

「ソロモンと中国の国交樹立」前駐ソロモン大使 遠山 茂

大使館の窓から – 一般社団法人 霞関会 から

 

全く想像していた通りの米国への反発がソロモン諸島にあったのだ。確かに米国が本来コミットすべきミクロネシア地域でも冷戦終結後、その存在は希薄であった。ソロモン諸島との関係はそれ以上に薄いであろう。米国が「自分たちをコマのように」扱うというのは最近政権交代のあったサモアでも新首相が述べていた記憶がある。

ところで外務省の中国スクールであろう遠山茂大使は、このようなソロモン諸島国内での米国への反発を同盟国に伝えることもなく、日米協力でソロモン諸島支援をという発想は全くない。

豪州・ニュージーランドの国力ではこの広大な太平洋の島々を支援しきれない。現在ソロモン諸島最大の人口(約25%の16万人)を抱えるマライタ州は台湾支持を主張している。

日米戦略対話が必要である。遠山茂大使が支援優先分野であげている漁業支援に関連した違法操業監視はその一つであるはずだ。