やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

海洋監視体制強化こそ、水産資源と中国の海洋進出への対抗策

キリバスのメガ海洋保護区PIPA(The Phoenix Islands Protected Area)が商業漁業への開放に踏み切るニュースを巡って関連資料を読んでいる。その中に私が2008年に立ち上げたミクロネシア海洋安全保障事業のパラオ事業を取り上げ、日本財団から出た50億円前後の援助はパラオの海洋保護区PNMSのためだという記述があった。

これは全くの誤解なので書いておきたい。
ミクロネシア海洋安全保障事業は2008年に私が立ち上げた。きっかけは色々あるが、一つは太平洋司令軍キーティング司令官が中国解放軍が太平洋を二分しようと提案したことを米国議会公聴会で述べ、これに日本財団の笹川陽平が反応し、産経新聞の正論の意見を書いた事にある。
しかし陽平は太平洋島嶼国、ミクロネシアの事は何も知らない。私が本人から求められてミクロネシア支援を提案しそのことが正論記事そのまま書かれたのである。

もう一つのきっかけはマーシャル諸島大統領公式来日の際に私が当時の日本大使に提案し陽平と面談させ海洋支援を提案いただいた事にある。

これを受けて、私と、当時国交省からの天下りで笹川平和財団にきていた羽入二郎が現地を訪問し、国交省の管轄である海上保安庁の協力を得ながらミクロネシア海洋安全保障事業を立ち上げようということになった。

ミクロネシアで、というのは私にはしっかりした理由があった。まず私は既に10年近くミクロネシア地域協力の枠組みで通信規制改革を支援してきた。この枠組みで海洋安全保障も動かせるのではないかと期待したのだ。
パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島の大統領、閣僚と早速交渉し、2008年11月のミクロネシア大統領サミットで議案となり、正式にミクロネシア3カ国から要請を受ける形となった。

この事業が突然海洋保護区案件になったのは、2013年に3期目の大統領に当選したパラオのレメンゲサウ氏がパラオ全EEZを商業漁業禁止とする海洋保護区を提案してからである。現在でもパラオは海洋監視能力が十分でないのに、また国連海洋法条約にも疑義があるにも関わらずこのアイデアを進めようとしたのは羽入二郎である。彼は国交省では航空が専門で海洋問題は素人である。国交省からの天下りで同じ財団にいた寺島ひろし氏は海洋問題が専門のようだったが、これを止めずに「まあ、言っても聞く耳持ちませんから」と進めてしまったのである。

2008年、当時はまだ誰も真剣に向き合わなかった中国の太平洋への野心を念頭に、パラオを含むミクロネシア海洋安全保障事業を立ち上げたのである。これが現在の米日台、英仏独蘭等々がミクロネシアで、また太平洋で海洋安全保障軍事行動を展開する大きな基盤となったことは、強調しておきたい。メガ海洋保護区は後から出てきたのだ。

キリバスもパラオもメガ海洋保護区を設置することで信託基金を設置しその運用費を得ることが目的である。メガ海洋保護区の科学的根拠もあきらかでないばかりか両国は監視能力はなく絵に描いた餅でしかないとの指摘は以前からある。メガ海洋保護区は支援すべき対象ではない。それより世界の海軍が乗り出している海洋監視体制の強化こそ、水産資源と中国の海洋進出への対抗策となる。