やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

岸田首相シャングリラで太平洋島嶼国の海洋安全保障を発表

youtu.be6月10日、シンガポールのシャングリラ対話で岸田首相の演説が行われた。あまり期待しないで聞いたいたら、「太平洋島嶼国」「海洋安全保障」(しかも20億ドル予算明言)と、「海上自衛隊のインド太平洋派遣」がかなり詳しく、明確に述べられていた。

全て私が2008年から、いや40年近くに渡って関与してきた事なのだ。

最近記憶の走馬灯がよく出現する。文章にまとめきれず、2回Twitterスペースで話した。

岸田首相シャングリラ演説とインド太平洋の海洋安全保障

https://twitter.com/i/spaces/1OwGWzQRPQnKQ?s=20

岸田首相シャングリラ演説とインド太平洋の海洋安全保障(2)

https://twitter.com/i/spaces/1rmGPgAjlVVKN?s=20

 

「太平洋島嶼国」

まずは太平洋島嶼国のパラグラフである。かなり長く詳細である。シャングリラ対話の歴史の中で首脳がこれだけ明確に述べたケースはないであろう。当然王毅外相のアイランドホッピングを意識しての事と思うが、日本政府は2018年の第8回島サミットから海洋安全保障とインド太平洋を議案に入れたのである。提案したのは私である。

「また、ASEAN諸国と並んで太平洋の島国の皆さんもFOIPの実現のための大切なパートナーです。彼らの存立にかかる気候変動問題への対応を始めとして持続可能で強靱な経済発展の基盤強化に貢献します。日米豪が連携した海底ケーブル敷設など、近年の安全保障環境の変化に応じたタイムリーな支援を実施してきています。法の支配に基づく持続可能な海洋秩序の確保に向け、太平洋島嶼国の皆さんと共に歩んでいきます。FOIPに基づく協力。それは、永年に亘る信頼に立脚した協力です。インフラ建設といったハード面にとどまらず、現地の人材を育て、自律的かつ包摂的発展を促す支援や、投資のパートナーとして官民挙げた産業育成などが中心でした。ASEANの連結性強化の取組も支援してきました。有志国が連携してこの地域にリソースの投入を増やしていく必要があります。」

 

「海洋安全保障」

次に海洋安全保障である。ここで「海上保安」と言わずに「海上安保設備」と言っている点は日本海上保安庁の活動を超えた、海洋安全保障を意識していると読みたい。なぜならば、海保がない国も多く、また日本が共同する相手は王立豪州海軍など海軍が法執行を担当するからだ。そして向こう3年で20億ドル、3千億円弱の予算を提示した事は世界を驚かせた。

「さらに、インド太平洋諸国に対し、今後3年間で少なくとも約20億ドルの巡視船を含む海上安保設備の供与や海上輸送インフラの支援を行うことをここに表明します。クアッドや国際機関等の枠組も活用しながら、各国への支援を強化していきます。加えて、法の支配といった普遍的価値やルールに基づく国際秩序を維持・強化するため、国と国・人と人との繋がりやネットワーク作りを強化していきます。そのため、今後3年間で法の支配やガバナンス分野における1,500人以上の人材育成を行ってまいります。」

 

「海上自衛隊のインド太平洋派遣」

最後に海上自衛隊のインド太平洋派遣についてである。日本の軍国主義の復活だ、という中国からの批判をかわし、「東南アジアや太平洋諸国」との共同演習が述べられている。これこそ私が2008年に一人で立ち上げたミクロネシア海洋安全保障事業の成果である。

自由で開かれた海洋秩序の実現に貢献すべく、日本は、海上自衛隊の護衛艦「いずも」などを中心とした部隊を6月13日からインド太平洋方面に派遣し、東南アジアや太平洋諸国を含む地域の国々との共同訓練などを行います。」

 

「樋口レポート:日米同盟を基盤とした多角的安全保障」

さて、太平洋島嶼国の海洋安全保障の背景にある、私の哲学的背景を述べておきたい。戦後初の日本安全保障政策、樋口レポートがある。恩師、渡辺昭夫先生が冷戦終結後の90年代初頭に書かれた政策である。一言で言えば「日米同盟を基盤とした多角的安全保障」。片務的日米同盟を動かす場所として、私はミクロネシアを選んだ。日米でミクロネシアの海を守る。片務からバイ、マルチの安全保障の動きを作る。それが事業の優位目標である。

事業を立ち上げてすぐ、国交省と日本財団の利権事業になり、現在パラオのウィップス政権が修正しようとしているが、沖縄漁業を阻害するパラオ海洋保護区というおかしな方向に行ってしまった。が、喜ばしいことに現在海上自衛隊が動き、日米同盟が動き出している。

私が立ち上げたミクロネシア海洋安全保障事業を修正すべく動いていたところ、2017年、笹川陽平から嫉妬を受け、仕事を失った。彼はこの事業を一切関与していないのでわからないのである。批判ではない。私に丸投げしてくれた事は感謝している。ところが運命の神はいた。古屋圭司議員が会長を務める、島嶼議連と海洋議連に呼ばれ講演をする機会をいただいた。そこで今回岸田首相が発表したインド太平洋の枠組みの中での太平洋島嶼国の海洋安全保障事業の必要性を提案したのである。

これをきっかけに海洋議連が提言をまとめ、当時の岸田外相と麻生財務省に提出された。あれから5年。岸田外相は岸田首相となってラッフルズのシンガポールで私の提案を世界に発表したのだ。

 

 

英和の全文

Keynote Address by Prime Minister KISHIDA Fumio at the IISS Shangri-La Dialogue (Speeches and Statements by the Prime Minister) | Prime Minister of Japan and His Cabinet

令和4年6月10日 シャングリラ・ダイアローグ(アジア安全保障会議)における岸田総理基調講演 | 総理の演説・記者会見など | 首相官邸ホームページ