樋口レポート、第2章 日本の安全保障政策と防衛力についての基本的考え方の2節、多角的安全保障協力
武力行使に関して国連憲章と日本国憲法の整合性、すなわち「武力による威嚇又は武力の行使」の理解が前置きとして書かれている。そして「国連の集団安全保障機構が本来の機能を発揮するためには、国際的環境の安定が必要である。」と説く。
続いて、国連の集団安全保障機構の未完成さを指摘しつつも、統治能力が不安な国で発生する武力紛争の予防とその拡大防止、秩序再建支援と言った国連平和維持活動の重要性と日本の積極的に参加が主張されている。ここはカンボジア選挙監視派遣など、世論を大きく動かした90年代初頭の日本国内の状況が反映されている。
国連平和維持活動に関連し、安全保障のための国際協力として開発援助(ODA)、非政府団体(NGO)の活動を社会全体が取り組むべきと主張。90年代、民間、NGOの国際協力、安全保障面への貢献が激しく議論された事を思い返す。実は私は1991年のカンボジア選挙派遣団のメンバーであったが、笹川平和財団の幹部から呼びつけられ、退職してから行け、と言われた経験がある。当時1997年の日本のODA 案件となったUSPNet事業を一人で抱えていたので、仕事を選んだのである。
次に、各国の自衛力が容認される事を前提に「世界的・地域的な規模での軍備管理の制度」として「日本の提案で国連に設立された通常兵器移転登録制度」など管理の必要性を説く。特に核・生物・化学兵器やミサイル技術などの大量破壊兵器拡散防止の国際的管理・監視の体制の強化に、日本は貢献することをあげている。ここはどうであろうか?当方身近な例では、太平洋島嶼国の便宜置籍船による北朝鮮の瀬取り行動など、管理・監視は緩かったとしか見えない。
次に、ASEAN地域フォーラム(ARF)を中心に地域的なレベルの「協力的安全保障政策」が議論されている。アセアン諸国の武器移転と取得、軍事力の配置、軍事演習などに関する情報を相互に公開してその透明性を高めるための地域的制度、海難防止、海上交通の安全、平和維持活動に関する協力の仕組みの必要性を説く。これが過去28年、どこまでできていたのか。さらに中国、ロシア、インドシナ諸国、北朝鮮との対話を進め、アジア・太平洋の安全保障環境の透明度・安心感を期待しているが、対話は悉く失敗したとしか思えない状況である。なぜか?
韓国、中国、ロシアとの2国間の軍事交流が提案されているが、どこまで行われたいたのであろうか?
最後に「日本はオーストラリア、カナダなど、国連平和維持活動の豊かな経験をもっている国々との交流を進めることで、地域的協力についてより多くを学ぶことができる。・・軍事面での相互訪問、研究交流、相互留学、共同訓練などの経験を積み、地域的安全保障のための協力の基盤を広げていく努力をすべきであろう。」との提案がある。
ここは米だけでなく豪仏英との2+2や中国を睨んだインド太平洋構想で一気に進んだ。特に2007年から開始した日豪2+2に勢いをつけたのは、2008年に私が立ち上げたミクロネシア海洋全保障事業である。更に言えば、その動きの基盤として1999年辺りから日米協力を基本としたミクロネシア地域協力の枠組み支援がある。これこそ、私が渡辺先生のご指導を受けながら進めてきた「多角的」地域安全保障の枠組みであった。