やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

沖縄と太平洋を結ぶもの

(2001年ごろ書いた文章です。)

沖縄と太平洋を結ぶもの

  日本と太平洋島嶼国の関係を構築する際に東京を窓口にして発展性が望めないという印象を持っている。それは経済規模の違いだけでなく豊かさの価値観の絶対的な違いが見られるからだ。さらに言えば東京に住んで島を語る人々には一概に、島に対して「かわいそうな、助けてあげなければならない存在」と考える傾向が見える。確かに「離島苦」の問題は解決されなければならないが、過疎地、大都市それぞれ固有の問題を抱えており、「島」の問題がそれらに比べて特別 大きく扱われる理由は見当たらない。

  豊かさの観点からすれば、少なくとも熱帯に位置する沖縄と太平洋島嶼国は、多くの資源に恵まれており、自給自足の生活をする限りでは比較的豊かであると言えよう。逆に貨幣経済と物質文明がもたらされたことにより貧富の差が生まれ、島の、特に都市において多くの問題が発生している。JICAの太平洋島嶼国担当者とマーシャル諸島でたまたま話す機会があった。その担当者は「島の人々にまずはサンダルをはいてもらうのが私の目標です。」と語っていた。「裸足」であることと貧しいことがどのようにつながるのか? 日本に復帰し経済的に豊かになった沖縄の人々が「モノがなかった昔の方がずっと豊かだったような気がする」とつぶやくのを何度か聞いたことがある。パプアニューギニアのジャーナリストを沖縄の那覇に連れていった時のことだ。「この島は大変だ。こんなに物があふれており、外からの供給が断たれれば生きていけない。まだ私たちはいつでも山に入って自給自足に戻れる」と言われた時は、まさに目から鱗が落ちた思いであった。

 海に囲まれ、限られた人口と資源の閉じられた島嶼社会には固有の資源管理の理論があるはずである。東京と太平洋島嶼国を結んでもその糸口は見つけにくいであろう。日本の中の島嶼地域で同じ熱帯の環境にある沖縄と結ぶことで多くの解決策を見つける可能性に期待したい。それは小規模なまた数少ない解決策かも知れない。しかし、島嶼社会は大きな変化や外からの影響に脆弱であり、小さな変化が徐々に広がっていくこと、若しくは限られた場所で行われることの方が良いように思う。

  その他に島嶼社会の資源管理は島固有の文化、コミュニティのあり方とも深くつながっている。古くから伝わる月の伝説と潮の干満に関連した漁のきまりはまさに環礁の資源管理である。人々の政治への関り方も、100万人の人口の都市とは違う。4万人の八重山には発行部数1万のローカル紙がある。4人に1人の購読率は、島嶼社会の情報の流れがいかに濃いかを示している。

 これらの島社会の文化的固有性も多くを太平洋と沖縄は共有している。両者を結ぶことで発見、再発見されるものも多いだろう。島嶼社会の発展は自然環境や人々の生活に与える影響を考えてもまさに「内発的」に行わなければならないと考える。

(文責:早川理恵子)