やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

マーシャル諸島ーレビュー - 3.自由連合協定の行方

この春発行されたThe Contemporary Pacific(Volume 23, Number 1, Spring 2011), Micronesia In Reviewのマーシャル編を、多少解説を加えながらまとめました。

 

 

 2009年後半、1年近く不在であった米国とマーシャル諸島共和国、両国の大使が新たに任命された。

 しかし、2010年初頭、大使就任と共に自由連合協定の理解について両国の間ですれ違いが発生。  

 2010年3月シルク外務大臣は自由連合協定は2023年で終了しない。終了するのは自由連合協定で合意された支援金である、と述べた。

 2010年4月、それを受け米国大使は自由連合協定を2023年以降も延期する意志は、現時点において米国政府は微塵もない。継続するのは基地の土地使用料だけである、と明言。

 2010年6月、ミクロネシア3国への開発資金を管理する国務省島嶼局から評価報告書が発行された。57頁の同報告書には地元民間企業が育成されていない事、支援金の不正使用、特に教育省と保健省で不正が顕著であることが書かれていた。

 2010年6月末にはマーシャル諸島共和国政府から、同報告書に対する回答が出されるはずだったが、未だ出ていない。

 

 核実験の補償についても、米国最高裁によって終止符が打たれた。

 30年続いたビキニ核実験への補償交渉は、1986年の署名された自由連合協定に含まれ、個別の補償要求に応じないとの判断がされた。

 しかしマーシャル諸島にとっての希望も出て来た。上院エネルギー天然資源委員会会長のジェフ・ビンガマン議員(共和・ノ ースカロライナ州)はネバダ、マーシャル諸島等米国が実施した全ての核実験に対し、一人150,000ドルの補償を出す法案を提出。

 この法案とは別にビンガマン議員はマーシャル諸島で核実験に従事した人々へ補償法案も提出。同法案は2010年6月、自由連合協定が終結する2023年まで毎年4.5百万ドルが支払われるという内容で、議会の最終判断を待っている。

 

 マーシャル諸島における鳥インフルエンザや他の感染病も深刻である。2009年には115人の感染者と1名の死者を出した。2010年には多剤耐性結核で10名の感染者の内3名が死亡。

 自由連合協定を締結するミクロネシア3国から多くの人々がハワイ州に居住している。わかっている範囲で8千人。その他に病気治療等の理由で毎週のように多くのミクロネシア人がハワイを訪れている。

 このミクロネシアの人々の医療費が逼迫するハワイ州予算に追い打ちをかけている、という理由で、その医療サービスに制限がかかることになった。

 ミクロネシア3国の人々は年間の治療が一人12回までに制限。但し視覚障害者、障害者、妊婦、子供は対象外。

 2010年7月から開始される同制度によって、ミクロネシア3国の人々の生活、健康管理にどのような影響が出るのか。未知数である。