やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

第14回 ミクロネシア大統領サミット

第14回ミクロネシア大統領サミットがミクロネシア連邦ポナペにおいて7月17−18日に開催された。

ミクロネシアのサブリジョナル地域協力の枠組み形成を当初から見て来た当方にとって、このサミット及び、米領グアム、サイパンを含む首長会議の発展、進捗を知るのは特別な思いがある。

笹川太平洋島嶼基金は1998年から、当方の恩師でもある渡辺昭夫東京大学名誉教授を運営委員長にお迎えし、第二次プログラムガイドラインを開始。そこに、ミクロネシア重視を入れ込んだのである。ミクロネシア諸国は日本にとって歴史的にも地政学的にも、重要な地域である。

歴史の事をいえば、国際連盟下、旧独領の赤道以北の島々、即ちミクロネシア諸島が日本の委任統治となった。豪州のパプアニューギニア委任統治とは対称的に、日本はミクロネシアの子供にほぼ100%の義務教育を実施した。1942年、PNG国父ソマレ閣下はなぜ初めての「教育」を日本軍から受けたのか?1919年のベルサイユ条約から1942年まで、いや戦争が終わった後も豪州は教育の機会を長らくPNGに与えてこなかったのである。

地政学の事を言えば、ミクロネシア海域は日本の太平洋側の海洋を囲んでいる。また豊富な漁場でもある。さらに、ミクロネシア諸国は戦後国連の信託統治として米国が戦略的地域として管理してきた。日米同盟上も重要な地域である。

笹川太平洋島嶼基金の事業は主に遠隔教育事業支援を通して、結果的にミクロネシアの地域協力枠組みを側面支援してきた背景がある。

2000年頃に誕生した、このミクロネシア地域協力の背景には、米国との自由連合協定交渉を、一国ではなく、ミクロネシア3国で協力して行おう、という事が主な目的ではなかったかと思う。自由連合協定、ニュージーランドクック諸島の協定が5−6枚の合意内容であるのに対し、米国とのそれは何百ページもあり、さらの準規約のようなものがぞろぞろあるのである。冷戦最中の事あり、しかもミクロネシア地政学的位置は、クック諸島とは違うのだ。この協定交渉、人材不足のミクロネシア諸国が一国でとても手に負える内容ではない。

他にも、通信、運輸、教育、ニウエ協定等々共通の社会開発議案があったし、何よりも当時、豪州NZが独裁色を強めていたPIFへの違和感がミクロネシア3国にあったようだ。遥々赤道を超えて行くのに(ちなみにミクロネシアからパプアニューギニアに行くには日本など、一度北上し、アジア経由で行くしかない。直行便があれば3時間程の距離であろう。)ミクロネシア諸国の優先課題とは関係ないフィジー問題ばかり話合わされるのである。

このミクロネシア地域協力の当初の成果は海洋保護区”ミクロネシア•チャレンジ”である。これは後々、アジア、カリブ諸国等、世界に広まっていった。これを主導したのが現大統領のレメンゲサウ閣下。そして、ミクロネシア地域協力自体を主導したのが初代大統領ナカムラ閣下である。ちなみにこの両政権を支えたのがビリー•クアルテイ現外務大臣である。

さて、今回のサミットでは何が合意されたのか?

個人的にはパラオーヤップーグアムを結ぶ海底通信ケーブルの件に関心があるが、それよりも重要なのが下記の3点であろう。

1)海洋保護、監視を Mixed Management Approachで行う。特にPNA, FFA, PIF対話国(日米の事ではないか)との協力を重視する。

2)ポストMDGsでは「海洋」を独立したテーマとする。

3)UNDPのサブリジョナルハブ、Micronesia Center for Sustainable Future、Small Island Statesオフィスを新たにミクロネシア地域内に設置する。

“14th Micronesia Presidents Summit Communiqué”

http://www.fsmpio.fm/communique/Agreement_for_the_14th_MPS.pdf

今年のPIF議長国はパラオである。次がPNG, そして翌々年がミクロネシア連邦

パラオ大統領は、来年の島サミットで日本の首相と共に共同議長を努める可能性が高い。

安倍首相はカリブ諸国の地域連盟、CARICOMとの首脳会談を開催したばかりで、海洋、SIDSを述べている。

Press Release

Japan – Caribbean Community (CARICOM) Summit Meeting ~Japan’s CARICOM Policy~

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000047229.pdf

最後に提言。

日本は、米、豪、NZと共に、太平洋島嶼国の海洋問題(海は陸に、島につながっている)を支援して行く体制を作る時であろう。そして、ミクロネシアに関しては、米国との協力において、自由連合協定の肩代わり的役割を、米国ミクロネシア諸国と協議すべきである。具体的には、現在米国が保留している、パラオへのコンパクト支援金の肩代わりや、海洋監視、資源管理、そして、教育、保健とやる事はいくらでもある。

旧敵国、米、豪、NZと日本の違いは、彼らには歴史や伝統文化がない、という事である。そして、ミクロネシア、太平洋島嶼国は数万年のスパンで気候変動に適応してきた人類の知恵や、数千年のスパンで広大な太平洋からインド洋をカバーした航海技術でヒト、モノ、情報の交換による資源管理の知恵があるのである。