やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

再び warshipとlawship

 2012年8月クック諸島で開催されたPIF総会に出席した米国のクリントン国務長官はロックリア米太平洋軍司令官と沿岸警備隊第14管区司令官チャールズ W・レイ少将を引き連れて参加した。特にレイ司令官の同席の意義。これを理解しているのは米国沿岸警備隊の関係者と日本ではもしかして当方だけではないか、と思う。

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写真は右からクリントン長官、ロックリア米太平洋軍司令官、チャールズ W・レイ少将

 米国の太平洋の軍事シフト。一義的には法執行を、という米国のメッセージなのである。南北戦争の遺産「ポッセコミテタス法」の現れでもある。

 クリントン長官が両司令官を引き連れる、というアレンジとは対照的な日本が行う対太平洋海洋安全保障支援の記事が2本、出た。

 一つは朝日新聞デジタル版に掲載された「自衛隊、外国軍に技術支援 6カ国対象、ODAの枠外で」2012.8.26 牧野愛博

 一つは産経新聞に掲載された「小さな1隻を大きな飛躍へ」2012.9.8 客員論説委員・千野境子

 前者は防衛省自衛隊が、トンガも含めた東南アジアなど6カ国の国防当局や軍を対象に、地雷除去や医療など非戦闘分野の技術支援を紹介。今年度予算は1.6億円と小さく、財務省も政治家もメディアも注目せず、議論がなかった指摘する。

 後者は日本財団笹川平和財団が行うミクロネシア海上保安事業で、4年間さんざん議論した結果、現地からも米豪からも歓迎されているという話である。       

 どちらの記事にも欠けているのが法執行と軍事執行の違いの議論である。あの軍事大国の米国さえ、軍事が違法操業や人道支援、環境管理に出て来る事に敏感なのである。軍隊が社会的鎮圧を行うことを制したのがポッセコミテタスである。

 平和時の軍隊を遊ばせて置くわけにもいかない。あまり縮小すると、新たな紛争を招くことになる。しかし、軍事とは別に法執行のためにさらなる船や飛行機、人員を用意する余裕はどこの大国にもない。そこで、法執行の下に軍事キャパを活用する、という話である。

 9.11で見直された米国の安全保障。新設されたアメリカ合衆国国土安全保障省。ここに丸ごと異動したのが沿岸警備隊である。戦争の時は沿岸警備隊は軍隊に入るが、平和時は沿岸警備隊の下に軍隊が従うのである。