やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

再び自由連合協定

年明けから自由連合協定の話をする機会に恵まれた。

下記に資料をザッとまとめさせていただきましたが、話もザッとまとめてみます。

第2次世界大戦後の脱植民地化の動き ー 植民地独立付与宣言 ーというのがある。

UN Resolution 1514 (XV) known as the Declaration on the Granting of Independence to Colonial Countries and Peoples, was adopted by 89 votes in favour (NZ), with none against, but nine abstentions.

この宣言、即ち旧植民地に国連が提示した下記の3つの選択の中に「自由連合」がある。

1)独立国になる。

2)どこかの独立国に統合する。

3)どこかの独立国の自由連合になる。

小さすぎて国家としてやっていけないそうな国も自決権は得たいという場合、自由連合という道を示した。

これ、実はニュージーランド政府の提案。国連で合意を得た後、早速ニュージーランドクック諸島とニウエと自由連合協定を締結。この協定書は紙でたった4−5枚である。

この協定により、現在クック諸島の人口は安定。経済も辛うじて安定。ニュージーランドという受け皿が常にあるからである。加えて中国でもどことも自由に外交を展開する自由を保持している。

この自由連合協定を適応したい、と考えたのが、信託統治下にあったミクロネシアのリーダーたち。当初米国はとんでもない、と反対したが、ソ連からの圧力もあり、当時の米国のベストアンドブライテスト達が一計を案じた。米国の独占的軍事アクセス認めさせ、ミクロネシア諸国の外交関係を干渉する否決権を米国が保持。簡単に言うとミクロネシア諸国はお友達を選ぶ時いちいち米国にお伺いを立てなければならない。

これはここ数年話題になっている実際の話。

中国がたとえ民間施設でも観光開発の名目で空港や湾岸をヤップに作ろうしたらこれが将来軍事利用される可能性もあり、否決する権利が出て来る可能性も。これもヤップがFSMから独立しなければ、の話だが。ここら辺の話は実際に米国の関係者がしていた内容です。

そしれ米国の自由連合協定は1万ワード以上。補助協定はもっとすごくて6万ワード。がんじがらめの自由連合。自由なんてどこに?

もしミクロネシア諸国に日本の自衛隊が入る事になれば、これはミクロネシア政府ではなく米国政府の了解を得て、という話になる。

米国にとってのミクロネシア諸国。国連の精神を、脱植民地化の精神を冒涜しているのは、アメリカ人自ら批判している(下記の2つのペーパー参照)。しかしこの協定ができたのは冷戦時代である。ミクロネシア地域の歴史的地理的政治的背景は南太平洋のニュージーランド及び周辺地域とは全く異なっているので、本来の自由連合のアイデアとは違うものになってもしょうがない。

結果、ミクロネシア地域は、民族自決や福祉向上というより、ひたすら米国の安全保障のために組み込まれてきた。

今はどうか?西太平洋の安全保障は、冷戦が終結した今でもその必要性をキーティング元司令官始め、米国国防省、特にグアム、ハワイ辺りは感じているだろうが、地球の裏側にあるワシントンの理解を得るのはなかなか難しいようである。パラオ自由連合協定資金凍結は典型的な例であろう。

さらにミクロネシアの人々が、医療・教育・就労を目的にハワイ、グアム、サイパンを訪ねる事はこの自由連合協定によって本来保障されているのだが、これを規制しようという動きがある。米国のどこも財政難の中、他国からの訪問者の福祉の負担はできない、という話である。

ニュージーランドが提案した、脱植民地化の一環としての「自由連合」。その本来の意味において、日本が米国の肩代わりを、もしくは日本と米国が協力してもいいのではないか。

現在もODAその他の支援は行われているが、より戦略性を持ってよいのではないか、と思う。

具体的には、災害支援がある。今回のパラオ台風被害で、横田、グアム辺りの米軍は動いていない、と思う。日本が米国と共に災害支援に乗り込める環境作りを提案したい。例えば離島支援に最適な海上自衛隊のUS2はパラオまで飛行できるようだ。もちろんミクロネシア諸国の広大なEEZ, 違法操業監視などの海洋管理もある。

<以下関連資料です>

クック諸島とNZの自由連合協定に関しては1973年の自由連合締結文書と2001年の共同宣言がある。前者は紙3枚。後者は6枚程度の短い文書。

1973年 “Exchange of Letters between the Prime Minister of New Zealand and the Premier of the Cook Islands concerning the nature of the special relationship between the Cook Islands and New Zealand

2001年 "Joint Centenary Declaration of the Principles of the Relationship Between New Zealand and the Cook Islands"

リンク

http://www.mfai.gov.ck/attachments/068_WELLINGTON-1129712-v1-CookIslands%20%20Constitutional%20Status%20and%20International%20Personality%20%20informationpaper.pdf

パラオと米国の自由連合協定、上記のニュージーランドクック諸島とのそれに比べ、非常に細かい。約1万2千ワード。

冷戦時代はともかく、他国とパラオの関係構築の拒否権が米国にあるというこのような協定が未だ存在する事はいいのか悪いのか。。ポストWWIIの、冷戦時代の代物である事に違いはないが。

もしパラオに日本の自衛隊が入るという事になればこれはパラオではなく米国の許可を得て、という話になるし、歴史的な事件だと思う。(下記協定の311,312参照)

REPUBLIC OF PALAU

COMPACT OF FREE ASSOCIATION

http://photos.state.gov/libraries/palau/5/home/rop_cofa.pdf

パラオのは見つからなかったが下記のウェッブにあるミクロネシア連邦の協定のオリジナルは約1万6千ワード。その補助協定に至っては約6万ワードもある。こんなの誰も読まないって!

http://www.uscompact.org/files/index.php?dir=FSM%20Publications%2FCompact%20Documents

グアム代表連邦議員をつとめ、現在グアム大学学長をつとめるアンダーウッド学長のペーパー。米国の自由連合は「自由」よりも「連合」が強いという批判。

Underwood, Robert A., "The amended U.S. Compacts of Free Association with the Federated States of Micronesia and the Republic of the Marshall Islands : less free, more compact", Honolulu: East-West Center, 2003

http://scholarspace.manoa.hawaii.edu/bitstream/handle/10125/3612/PIDPwp016.pdf?sequence=1

パラオ自由連合協定に関与した米国の法律家が書いたペーパー。米国の自由連合協定は国際法上問題がある、事を指摘している。

Jon Hinck, "The Republic of Palau and the United States: Self- Determination becomes the Price of Free Association", California Law Review, Volume 78 | Issue 4 Article 3, 7-31-1990

http://scholarship.law.berkeley.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1829&context=californialawreview