やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「太平洋島嶼国のEEZ管理能力と国際協力の現状と可能性」

ミクロネシア海上保安事業を2008年5月に立ち上げてから7年が経つ。

その間、このブログを笹川会長の指示をいただき立ち上げて海洋問題を中心に書いてきた。

読者の多くの方は当方が海洋問題を研究していると勘違いされているようだ。

海洋問題は実務として扱っており、学術面では1991年からやってきた情報通信政策を国際政治及び開発論の分野で研究している。現在2つの修士を終えた後博士論文を執筆中である。

しかし、これだけ海洋問題を書いて来ると学術的関心も湧いて来る。

そこで,無謀にも寺島常務のブログで紹介されていた日本海洋政策学会の第7回年次大会研究発表に応募してみることにした。理論枠組みはウィルソニアンを否定した即ち民族自決の危機を訴えたEHCarrを中心に置きたいと考えている。

下記のアブストラクトを書いた。多分採用されないと思うが、このように考えをまとめる機会となったことは良い事だと思っているし、コメントをいただき、さらに勉強する機会になれば至上の喜びである。

テーマ:「太平洋島嶼国のEEZ管理能力と国際協力の現状と可能性」

地球の3分の一を占める太平洋の海洋に散在する島嶼国は、60年代から次々と独立を果たし、現在22の政治単位がある。(独立国、領土、自治領等)70年代に始まったUNCLOSのEEZの議論の中で、島嶼国にEEZを与えないという議論もあったが、島嶼国の積極的な国際交渉の末、小規模な島嶼国も大国同様の200カイリの排他的経済水域を有するに至った。人口の一番多いパプアニューギニアを除けば、多くの島嶼国は数十万から数千の人口で構成されている。人口約10万人のキリバスは、小さな島々が散在する事で約300万平方キロメートルのEEZを有する国家である。

太平洋島嶼国に自身のEEZ管理能力が備わっているか?軍隊を有しているのはパプアニューギニア、フィジー、トンガの3カ国だけであり、残りは海洋警察等の法執行機関があるがどれも限られた能力である。人口約2万人、60万㎢のEEZを有するパラオの国家海洋警察はたった20名強である。法執行の能力も限られており、拿捕した漁船の法的処置は島嶼国政府の負担となっている。

このような状況は早くから予想されており、旧宗主国の豪州はパシフィックパトロールボートプログラムという監視艇の供与と専門家の派遣を過去40年近く展開している。米国との自由連合協定を締結するミクロネシア諸国は米国の海軍、沿岸警備隊の支援が受けられる体制がある。他にも地域漁業資源管理組織フォーラム漁業局を設置し、地域協力でEEZ及び公海の漁業資源管理の動きもある。しかし冷戦終結と共に米国の太平洋への関心は薄れ、広大な太平洋は違法操業、麻薬密輸、人身売買、密輸、違法移民等の越境犯罪の温床となっている。皮肉な事に主権国家となった島嶼国に支援の手を容易に差し伸べることができるのはグリーンピースシーシェパード等のNGOで海洋監視等を積極的に展開する動きもある。

小国の安全保障について、EHカーが「平和の条件」の中で、民族自決を主張し小国の誕生を結果的に促したウィルソニアンを批判しつつ、危機的状況になる事を70年前に既に指摘している。小島嶼国のEEZ管理は国家安全保障として本来主権の範囲ではあるものの現実問題として外部の協力は必須である。このような小国の安全保障を海洋管理の視点から議論したい。同時に海洋基本法にある「国際的な連携の確保及び国際協力の推進」の観点から日本の協力の可能性を検討したい。