やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

新渡戸稲造の天皇象徴論(3)

やはりこうやって公開で書くと多くの反応をいただけるのでありがたい。

新渡戸が天皇は象徴である云々について、当方は『武士道』を引用して現在の憲法第一条との違いを主張したが、新渡戸は1931年、亡くなる2年前にロンドンからの依頼で『日本ーその問題と発展の諸局面』という本を英語で出しており、そこにも天皇象徴論があって、そこからの引用ではないか、とのコメントをいただいた。

原文は英文だがその和訳が新渡戸稲造全集第18巻にある。佐藤全弘氏の訳である。

同書はかなりな大作で全7章、400頁近い。

その第四章 政府と政治の第一項「国体ー日本の憲政上の固有性」の中で天皇象徴論が述べられているが、これも『武士道』と同様憲法第一条とはかなり色合いが違う。

引用されたかも知れない箇所は

天皇は国民の代表であり、国民統合の象徴である。」

であるが武士道と同様、皇室の歴史、日本の歴史と幾重にも説明はされておりあの憲法一条を読んだだけの印象とは全く違うのである。長くなるが、上記の文章の周辺を引用しておきたい、

「してみるとコクタイは、最も単純な言葉に戻してみると、この国を従え、我国の歴史の始めからそれを統合してきた”家系”の長による、最高の社会的権威と政治権力の保持を意味する。この家系は国民全体を包括すると考えられる ー というのは、初代の統治者はそお親類縁者を伴って来たし、現在人口の大部分を形成しているのは、それらの人々の子孫だからである。狭義においては、その”家系”は統治者のより直系の親族を含む。こうして天皇は国民の代表であり、国民統合の象徴である。こうして人々を統治と服従において統一している絆の真の性質は、第一には、神話的血縁関係であり、第二には道徳的紐帯であり、第三には法的義務である。」(『日本ーその問題と発展の諸局面』183-184頁,新渡戸稲造全集第18巻、2001年、教文館

4章はかなり重い内容で一読したものの、理解できていない。

しかし、最後の第十一項来るべき改革で新渡戸が提案している箇所を書いておきたい。

「日本は、世界に対して、”尊王主義”は”民主主義”と矛盾しはしないこと、それはプロレタリア問題を処理する力がなくはないこと。国王は社会正義達成のための”天”の器となることができることを証明する公道に就いているのである。」(『日本ーその問題と発展の諸局面』243頁,新渡戸稲造全集第18巻、2001年、教文館

2009年7月、カナダ・ブリティッシュコロンビア州バンクーバーにある新渡戸記念庭園を天皇皇后両陛下が訪ねている。私は、皇室の在り方を書いたこの本をお読みになっているのではないか、と思う。

参考:両陛下、新渡戸稲造庭園を散策 カナダ・バンクーバー

2009年07月14日 AFP

http://www.afpbb.com/articles/-/2620878?pid=4357936