やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

新渡戸稲造と矢内原忠雄

小田 滋著 ー 主権独立国家の「台湾」 : 「台湾」の国際法上の地位

小田 滋。主権独立国家の「台湾」 : 「台湾」の国際法上の地位 : (私の体験的・自伝的台湾論) 日本學士院紀要 2007 年 62 巻 1 号 p. 43-68 海洋法の大家、小田滋先生が台湾論を、しかも「主権独立国家」とうたった論文を書いていらっしゃる。何気に読み出し…

矢野暢著『日本の南洋史観』読書メモ(1)

200ページの中公新書。6章の第1章は「七人の「南進論」者」で50ページを割いている。 ここにぎょっとして目が飛び出たまま、未だに引っ込まないすごい箇所がある。 中国の第一列島線と第二列島線。起源はもしかしたら矢野先生かもしれない。 前半では「南進…

サムライの南進、漁師の南進 ー『インド太平洋開拓史』

『インド太平洋開拓史』では「南進」を「サムライの南進」「漁師の南進」という切り口でまとめてみた。どうも戦争の南進ばかりが取り上げあげられ、それ以前の「南進」がほとんど無視されているような気がしたからだ。 維新で職を失ったサムライたちが何百万…

白石隆著「海の帝国」アダム・スミス、ラッフルズ

ラッフルズホテルとラッフルズは関係ないのだが、死ぬまでに一度は泊まってみたい。 白石隆著「海の帝国」は、ミクロネシア海上保安事業を2008年に立ち上げる時に、どのようなコンセプトで事業を進めればよいか、模索していた時に出会った本である。 「イン…

矢内原忠雄「南洋委任統治論」 1933.6中央公論(1)

私が新渡戸、後藤の植民政策まで辿り着いたのは南洋群島研究を書かれた矢内原忠雄の存在がある。取っ付きづらい文章と、私が「植民=悪」と思い込んでいた20代30代、矢内原の資料を読む気は湧かなかった。興味を持ったのは40を過ぎてからだ。この矢内…

マクロン大統領、ナポレオン三世の帝国主義を覆す?

2018年の最初の住民投票の前にニューァレドニアを訪ねたマクロン大統領。1988年先住民独立過激派とフランス人警官に19名の死者出した惨劇のあったウベア島を訪ね和解に一歩を示しただけではありません。 気になっていて、調べていなかった件を少しウェッブ検…

防衛省の太平洋島嶼国認識

吉川 尚徳 中国の南太平洋島嶼諸国に対する関与の動向. ― その戦略的影響と対応 ―. 海幹校戦略研究 2011 年 5 月(1-1). https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/review/1-1/1-1-3.pdf 防衛省が太平洋島嶼国をどのようにどれだけ認識しているのか? 2011年に…

Amelia Earhart mystery: Photo appears taken not 2 but 4 years before pilot vanished

Amelia born 24 July 1897, Tadao born 23 January 1893 In 2017 the well known HISTORY CHANNEL spread a false news report about America's most famous air heroine, Amelia Earhart, and included a possible photo of her and her colleague Fred Noo…

松岡静雄とポナペ開拓論

写真は左から松岡、横田、秋山、山屋 本を書く為に資料を再読するとどんどん新しい発見がある。 松岡静雄 ー 柳田国男の弟にして海軍大佐として第一次世界大戦では山屋他人海軍大将の指揮下でポナペを占領した。 1921年に病気で退役したと至る所で読んでそう…

満州事変 ー 笹川良一と松本重治、そして後藤と新渡戸

緒方貞子さんの博士論文、満州事変を読みながらここには名前が出て来ない2人の人物を思い描いていた。笹川良一と松本重治だ。 2人は1899年生まれで同い年。満州事変のどこにどのように関わったのか。本を読みながら想像していた。 私が笹川の看板を背負っ…

ベルツースパイ疑惑と森鴎外

ベルツの日記を読んでから、もう一度草津を訪ねたいと思っていた。 クローズドの日米英独安全保障会議に声をかけていただき、某国(日本ではない)の安全保障機関が京都から東京までの新幹線代を出してくれることに。上野から往復1万円の草津を再訪した。 …

ベルツの日記 読書メモ(5)ベルツと伊藤博文

1876年、日本政府との2年の契約で来日したベルツ博士は、26年契約を終えるが、皇室から契約の依頼があり、更に3年間滞在する。主に大正天皇の健康管理がベルツの業務だったようだ。 この「ベルツの日記」いつか読んでみたいと思っていたが、草津行きをきっ…

矢内原忠雄の帝国主義研究 2週間の読書メモまとめ

この2週間の読書メモ。 こんなに読んで書いたんだなー。なんか勉強したという幻想、錯覚を覚える。これでチャタムハウス対応万全。自分用のメモだが、読んでいる方もいると知って途中気合いが入った。

矢内原忠雄の帝国主義研究(4)全集1巻

大英帝国の残影、チャタムハウスの襲撃を受け、急遽コモンウェルスの本を読み「帝国主義」って何?とその定義、議論を知らない事を認識し(知らない事の認識って重要なんですよ)矢内原の帝国主義研究をこの2週間追ってきた。じっくり読むとまではいかない…

ベルツの日記 読書メモ(4)第5編フランス領インドシナ・韓国へ研究の旅

ベトナムと韓国を訪ねた記録である。 韓国の事は全くわからないが興味深い事が書いてある。 1903年2月8日韓国で面倒な事件が起っており、国王腹心の大臣李容翊はロシアのスパイ。日本はロシアを相手に韓国との外交を行う必要があった。 1903年4月27日の韓…

矢内原忠雄の帝国主義研究(3)全集2巻

矢内原全集第2巻は「あの」『帝国主義下の台湾』が入っています。 この論文を読むのは3回目。 最初は兎に角読んでみよう、と。 2回名は若林編集の『帝国主義下の台湾』精読を読んで目が点になって、再読。 そして今回。 今回は帝国主義に限って読んでみた…

ベルツの日記 読書メモ(3)第4編教職を退くまで

ベルツの家族 ベルツは日本人のハナさんと結婚して日本を第二の故郷とし、日本政府との当初2年の契約が26年になったのである。 26歳で日本に渡り、53歳で帝国大学を退職するが、その後3年宮内省侍医として勤め、1905年、56歳でドイツに帰るのだ。 読めば読…

矢内原忠雄の帝国主義研究(2)全集4巻

日本のある大学の博士課程の学生さんからこの帝国主義の読書メモを読んでます、と言われて嬉しくもあり、恥ずかしくもあり。 殆ど自分のためのメモなんだが、それでも世の中に一人でも参考にしていただけるということは、こうやって自分の無知を世に晒す意味…

ベルツの日記 読書メモ(1)

今年1月、始めて草津を訪ねた。ベルツ博士(1849年1月13日 - 1913年8月31日)に会いたかったからだ。 ベルツは新渡戸や後藤の文章に時々出て来る。そしてインド太平洋構想に深く関係しているはずなのだ。さらに皇室侍医でもあったのだ。天皇陛下のお言葉に…

矢内原忠雄の帝国主義研究(1)全集5巻

チャタムハウスからコモンウェルスとつながって帝国主義という言葉で躓いた。 矢内原全集に「帝国主義研究」があることを思い出して3本ほど小論を読んで、矢内原の植民政策を中心に読んできたが、帝国主義の論文も拾ってみる事とした。 まずは第5巻に収め…

矢内原「帝国主義の現勢」1927年 読書メモ

帝国主義研究が収まっている矢内原全集第4巻には論文集があり、その一つが1927年に書かれた「帝国主義の現勢」である。これも小論だ。 やはり反帝国主義はロシア革命の産物である。ロシアが帝国主義の対象である世界の植民地の民族主義者に反帝国主義原理と…

第一次世界大戦に日本は割って入ったのか?

京大の奈良岡教授が「第一次世界大戦に日本は割って入った」と主張され未だにショックを受けている。私の第一次世界大戦の理解は平間洋一先生の論文の依拠している。 なかなか難しく、複雑な議論だが「割って入った」と一言では片付けられないような気がして…

矢内原忠雄「南洋群島の研究」と歴史教科書執筆

高校生の歴史教科書書き直し。ボディの部分が学術書みたいで高校生には難しい,ということで話題を変えることに。あまり世の中に明かしていけないらしいので詳細は書きません。 関連資料をここ数日読み返した。 矢内原忠雄の「南洋群島の研究」は植民が悪い…

島嶼国の誕生と自決権、そしてレーニン・フルシチョフ

2つ目の博論では太平洋島嶼国の誕生を促した自決権を、島嶼国に関連する部分に絞って理論枠組の中で議論する予定だ。 一番重要なのが1960年の国連決議1514と1541。この決議を導いたのがフルシチョフの演説である、という議論はほぼない。1995年のカッセーゼ…

ダブ・ローネン『自決権とは何か』ナショナリズムからエスニック紛争へ(5)

第二章 5つの政治的表現 ー 民族・階級・少数民族・人種・エスニック ー ローネンの自決権のカテゴリーはわかりやすい。この5つの分類を見ていると何が抜けていて、私が太平洋島嶼国について議論したいどの部分が抜けているのが浮かび上がってくるのだ。 …

アダム・スミスの植民論(5)水田洋

同志社大学の「CiNii Articles」というサイトで「スミス」「植民」といキーワードを入れて出てきたのが34件の論文の中に水田洋氏の論文もあった。アダム・スミス研究の世界的権威である。(水田洋氏の本は以前読んだことがある。今99歳でお元気なようだ) ア…

日本の植民政策と「季刊三千里」

テレビがないので朝は虎ノ門ニュースを流しているが先日西岡力先生の出ている番組で、韓国の反日の動きが日本で作られたと言う話を聞いて思い出したのが「季刊三千里」と言う雑誌である。 【DHC】2019/9/16(月) 田北真樹子×西岡力×居島一平【虎ノ門ニュース…

アダム・スミスの植民論(4)榎並 八幡論文

アダム・スミスの植民論。最後の3本は90年代の榎並論文と2年前の八幡論文。 詳細に見ていけば、今まで読んだ論文と違うのであろうが要点は植民地との貿易、関税のあり方。植民地を分離か連合かどのように扱うか、という内容は同じだ。植民が悪いとは書いて…

アダム・スミスの植民論(3)長谷川貞之

筆者の長谷川 貞之氏は民法、信託法が専門で、日本大学法学部教授。 アダム・スミスの植民地論 / 長谷川 貞之 横浜商大論集 13(1), p28-53 (1979-12) 横浜商科大学学術研究会 スミスの「国富論」は税金や貿易のことに関して非常に詳細に書かれているのだ。長…

アダム・スミスの植民論(2)堀切善兵衛

2本目は堀切善兵衛氏の論文。講演会の記録のようである。 アダム、スミスの植民論 / 堀切 善兵衛 三田学会雑誌 5(3), 301(91)-316(106) (1911-04) 三田学会 堀切善兵衛氏、慶応を1904年に卒業。米英独を留学後母校で教授に。この講演をした翌年の1912年から…