やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ワシントン条約を巡る環境NGOの象牙保護プロパガンダ(修正あり)

8月末から9月にかけて開催された海洋を巡る国際的な動き、IUCN総会、米国のOur Ocean, そして国連のBBNJを追ってみる事とした。BBNJに入る前にヨハネスブルクで開催された第17回ワシントン条約会議で、フィジー、サモア、パラオが鮫とエイの保護を提案し日本は反対したものの可決されたとのニュース。これにピューが妙にはしゃいでいる。アヤシイ。

パラオ、ピュー、とくれば。。 さらに、アヤシイ。

ウェッブサーフィンしていると、太平洋にも海洋にも関係ない象牙の話の方がにぎわっている。

当方、ワシントン条約も象牙も全く知らないがここ数日のウェッブサーフィンで欧米環境NGOのプロパガンダ、明確な情報操作によって、国際的な政府レベルの取り決めがされている図式が見えてきたので、メモとしてまとめたい。

 

 

<東京海洋大学勝川俊雄准教授のツイッター>

最初に情報を得たのは、当方が漁業資源問題を学ぶ窓口となった東京海洋大学勝川俊雄准教授のツイッターである。

10月2日に

「日本の不正な象牙取引に関するNGOの調査は、海外では大きく取り上げられたので、日本の象牙規制がザルというのは世界では有名です。知らないのは日本人だけ。」

「日本政府の代表は、「日本の市場は、厳格に管理されている」と強調するが、その実態はこんな感じです。

日本で違法な象牙取引が横行、覆面調査でも確認 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト」

とツイートしている。

そして勝川氏が紹介するのが米国にあるEnvironmental Investigation Agencyという環境NGOである。

 

<アッキー、ウィリアム王子も守る象>

勝川氏のツイッターには

「自然保護のシンボルともいえる象牙は、世界的な関心が高い。「日本は、持続性よりも目先の金が大切な国」という風に受け取られかねない。国益を考えたときに妥当な判断だったのだろうか?」

というコメントもある。

当方象牙の事はピアノの鍵盤とか三味線のバチ程度しか知らない。

これもウェッブで検索すると、ファーストレディのアッキーこと安倍昭恵夫人も、英国のウィリアム王子も「象を守れ」という動きである。

 

"Prince William: Elephants and rhinos will be extinct in the wild within a few decades"

http://www.telegraph.co.uk/travel/news/Prince-William-Elephant-and-rhinos-will-be-extinct-in-the-wild-within-a-few-decades/

 

今回のワシントン条約で、違法取引でない象牙市場を指示した日本政府のコメントも確認した。

 

「日本のアフリカゾウ保全及び象牙取引についての見解」

http://www.env.go.jp/nature/kisho/zougetorihiki/SC66_View_of_Japan_regarding_conservation_of_African_elephants_and_trade_in_ivory_JP.pdf

 

象牙市場を必要としている国もあるのだ。また象が畑や家屋を壊す被害もある事を知った。

 

<米国Environmental Investigation Agencyのプロパガンダ>

勝川氏が紹介するのが米国にあるEnvironmental Investigation Agency(EIA)のレポートを読んだ。数頁の中身の薄い、明らかにプロパガンダとわかる内容である。

しかし、この内容がナショジェオにも取り上げられ、世界のニュースに掲載された。

それだけではない東京新聞が EIAから証拠を入手し、EIAが囮捜査をした一般財団法人・自然環境研究センターが違法行為に加担しているとのニュースを書いている。

これに対し、環境省にもインタビューした産経新聞のニュースはEIAが自然環境研究センターとのやり取りを都合よく切り取って引用している事が書かれている。

 

"Exposed: The Dirty Secrets of Japan’s Illegal Ivory Trade”

https://eia-global.org/press-releases/exposed-the-dirty-secrets-of-japans-illegal-ivory-trade

 

違法象牙の抜け道指南 登録審査の財団法人「昭和に入手と言えばよい」

2016年1月12日 東京新聞

http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201601/CK2016011202000119.html

 

アフリカゾウの密猟は日本のせい? 国際環境団体が潜入調査した象牙取引の実態とは

産経新聞

http://www.sankei.com/premium/news/160925/prm1609250031-n1.html

 

<横浜国立大学松田教授と岩手県立金子教授の見解>

まさかこんなにも明確なプロパガンダレポートを批判していないわけない!と探したが、肝腎の自然環境研究センターは沈黙を守っているようだし、諦めていたところに出会ったのが横浜国立大学大学院環境情報研究院松田裕之教授のツイッターである。

松田教授は10月3日のツイッターで

「ワシントン条約決議が出たが、今後も合法的な象牙取引は続けていただきたい。日本国内で象牙を売買するには必ず登録が必要だ。規制以前から所蔵している象牙も登録できる。詳しくは自然環境研究センター に問い合わせるとよい。」とコメント。さらにWebronzaに下記のコメントを発表された。

 

「日本の象牙市場を閉鎖せよと簡単には言えない理由・ワシントン条約-市場閉鎖と資源管理、どちらが有効かを考えるときだ」

http://webronza.asahi.com/science/articles/2016092800007.html?iref=wr_fbpc

 

松田教授にEIAのプロパガンダレポートについて照会したところ、岩手県立大学総合政策学部金子与止男教授の9月に出たばかりのレポートを送っていただいた。これはウェッブでも読める。

なお金子教授は元ワシントン条約事務局員でもあり、背景をくまなくご存知のようである。

 

Is Japan’s domestic ivory control inadequate?

http://www.iwmc.org/docman/cites-cop17-1/priority-documents/240-japan-ivory-control/file.html

 

金子教授のこのレポートは象牙に関わる方は必読である!

特に最後にある6つの提案が重要だが、2つ目のNGO活動の適法性は日本だけでなくパラオ、ニュージーランド(マオリがPEWに謝罪させた)を始め各国が議論すべきであろう。

これ財団にも無関係ではない。現在パラオ大統領選を追っているが、先日も日本財団、笹川平和財団の支援はPEWと同調している、と指摘されショックを受け改めて否定しておいた。 Legalに活動する国際NGOにとっても共通の課題である。

 

1. Japan should expedite its process to more rigorously define ‘whole tusk.’

2. Japan should investigate the legality of some NGOs’ undercover activities and where

appropriate, take the necessary actions.

3. Japan should strengthen its border control especially at the exit ports.

4. E-commerce companies should work closely with the government to eliminate any

dubious ivory items.

5. NGOs should co-operate with the Management and Scientific Authorities by providing

them with CITES-related information.

 

 

環境省はEIAから自然研とのやり取りの記録を入手している。これは是非公開していただきたい。日本が世界の悪者にされたのだ。

EIAは明らかに情報を操作しているのである。これが欧米環境NGOの実態だ。

次回はEIAに比べると急に可愛く見えて来たPEWの鮫エイのプロパガンダ活動をまとめたい。

 

 

なお、本件に関し、当方からの突然の連絡にも拘らず丁寧に対応いただいた横浜国立大学松田教授と岩手県立大学金子教授には改めて感謝申し上げたい。

 

修正箇所

Environment Investigation Agency → Environmental Investigation Agency