やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「国家管轄圏外における海洋生物多様性ーその保全と利用」濱本正太郎

国際法の実践』小松一郎大使追悼(信山社、2015年)に納められている「国家管轄圏外における海洋生物多様性ーその保全と利用」(濱本正太郎教授)をまとめたい。

議論は次の2つに焦点が当てられている。

一つは、MPAの法的適応性。もう一つは海洋遺伝資源(marine genetic resources:MGR) のアクセスと分配(access and benefit-sharing: ABS) に国際法制度を構築すべきか?という点。

論文の最後で、もはやMPAは海洋法条約と整合しないとか、国家管轄圏外の非鉱物資源には公海の自由が適用される、と言って済む時期ではないと結んでいるように昨日までまとめてきた田中則夫先生の議論がBBNJの2015年決議以前の内容だったのに比べ、濱本先生の議論は実施協定策定がほぼ決まる頃の執筆なので、内容がガラッと違う。よって論文には上記の2点の議論に加え立法論が議論されている。

まずMPAに関しては現行法での対応の限界が議論されている。なぜならば現行法は事項別でパッチワーク的規制だから。

続いてMGR-ABSに関してはUNCLOSの人類共同財産概念(以下CHM)かCBDによる対応が必要と説く。UNCLOS136条のCHMが、133条第一項に従って鉱物資源に限定されることは明白だが、136条は鉱物資源のみがCHMと定めておらず深海底も含まれる。そこで深海底の生物資源が含まれるとの解釈も可能。MGRの開発も利用もできない途上国からの不満にどのように応えるかという問題が提起されている。

CBDに関しては名古屋議定書の10条が国家管轄圏外MRGについての制度構築を予定しているようにも読める、と指摘。そして同議定書がCBD第15条の範囲に留まるとする名古屋議定書3条に矛盾する可能性もある、と指摘。

次節の立法論ではBBNJの国連での議論の経過がまとめられ、続いて今後の対応可能性について提案がされている。国家管轄圏外の生物多様性保全に関しては普遍的制度を構築しても法的拘束力は必要ない。国家管轄圏外のMGRをCHMではないと否定するのは困難なので、MGR-ABSを深海底鉱物資源を異なる制度で構築する事が現実的。

UNCLOS第11部、深海底実施協定に基づく制度を国家管轄圏外のMGRに適用するかどうかは、MGRに関しても先進国しか開発し得ないのあるから日本が現状維持、何も対応しない、と主張しても途上国に押し切られるのではないか。排他的権利がない国家管轄圏外のMGRについて制度が出来たとしても諸国が具体的な権利義務を有するかは一義的には決定されない。

MGRの技術移転に関しては深海底実施協定にみるように「実験室」で技術移転が可能ではないか。

最後に、開発業者が利益を得られないような制度構築は、発展途上国にとっても無意味であり、その事はUNCLOS第11部の議論で学習済み。そうであれば途上国が納得するような制度構築が日本にとっても有利ではないか?EUが前向きなのはそのような文脈で理解すべき、とまとめている。

<私の感想>

海洋法の議論、ポイントは南北問題なのだろうか?

そうであればなおさら、民族自決の政治的レトリックの踊らされて独立した島嶼国を、その広大なEEZを先進国が率先して支援すればいいのではないだろうか。。