やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『国際海洋法の現代的形成』田中則夫著(読書メモ)その3

「第2部深海艇制度の成立と展開」

第5章深海底の法的地位をめぐる国際法理論の検討132−187頁

ここでは人類の共同財産を扱っているので先に読んだが、執筆時期が1986−1987年頃なので、UNCLOS第11部の実施協定以前の議論である。すなわち米国は初めとした先進国の不満とUNCLOSとの合法性、違法性の学術的議論を後半で紹介している。UNCLOS第11部の産みの苦しみがわかるような章、と言って良いのでは?

開発したい先進国と、利益を得たい途上国の相克はBBNJの議論にも参考になるであろう。

前半ではCommon Heritage of Mankind (CHM) ー 人類の共同の財産について議論されている。私が知りたかった内容だ。

138ページ 1ページを使った注で、CHMの歴史的議論の背景が詳述されている。1832年からあった議論とのこと。興味深いのは海洋法では1958年の第一次海洋法会議で、タイの議長が述べたのが最初であること。1948年の世界政府運動の動きはエリザベス・マン・ボルゲーゼが関わっているはずだが海洋法の学術書に彼女の名前は出てこない。なぜか?学者、ではないのか。

139ページ CHM原則に対する国家の態度を3つに分けている。1.米国を中心とした先進資本主義グループ、2.発展途上国グループ、3.ソ連を中心とした社会主義諸国。この時点でCHMは厳密な法の概念ではなかった。

140ページ 「現在でもなお見解の一致を見ないのは、人類全体の利益とは何か、また、何を持って人類全体の利益が確保されたと見るのか、という問題である。」この議論は今も回答がないのではないか?

142ページ 発展途上国CHM原則は先進資本主義グループと全く違う。1.人類の財産の集団的管理、2.深海底活動への集団的参加、3.利益の集団的享有。ここもBBNJの議論との共通点があるように思う。

144ページ 「1974年はまた、国連において新国際経済秩序(NIEO)に関する二つの重要な文書ー… 77カ国グループは、これらの文書の採択以降とくに、海洋法会議とNIEOの樹立運動の一環として重視した。」 つまり、脅し、レトリックに利用したわけだ。

145ページ 社会主義国は「国際社会が異なる社会経済体制と異なる財産権制度を持つ諸国から成り立っている現状に留意すれば、そうした考え方は幻想に過ぎない。」正しいよね。 しかし社会主義国はは1975年以降77カ国グループ寄りの立場に。理由は先進資本主義グループの資源の独占を防止する上で有効、

147ページ 学界における理論状況を色々紹介しているが、UNCLOSと月協定がCHM原則の生成、展開過程において一つの画期をなす。そして政治的道徳的原則が法律上の概念になった。

154ページ CHM原則の法的性格を一般的レベルで承認する議論は多い。この章では、時期的に先進資本主義グループがUNCLOSを無視して開発することの合法・違法論が扱われているが、CHMの学術的議論は何点かペーパーを読んでみたい。ここでも小島嶼国の存在がきになるところだ。