やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

BBNJ新協定を考えるー海洋秩序の発展か変容か?

アジア国際法学会日本協会第8回研究大会(2017年6月25日、早稲田大学)で坂元茂樹教授が「BBNJ(国家管轄権権外の海洋生物多様性)新協定を考えるー海洋秩序の発展か変容か?」というテーマで発表されたので拝聴させていただいた。

坂元教授の発表があった午前中は、会場の80%くらい埋まっていたが、午後は半分以下だったような印象がある。外務省など省庁の方等が多く参加されたらしい。それだけ重要なテーマなのである。

手元のペーパーを何度か読み返した。

自分の頭の整理のために簡単にメモしておきたい。

発表内容は下記の6項目からなる。

1.はじめに

2.生物多様性条約の採択と締約国会合による主導

3.国連での動き

4.準備会合における対立構造

5.科学委員会を巡る論点

6.おわりに

1.はじめに 

UNCLOSでは認識されていなかった海洋遺伝資源(MGR)と海洋保護区(MPA)がBBNJの議論の背景のある事が説明されている。ここでMGRの特殊性が具体例をあげて説明されているが、これが理解できないとBBNJの議論は本来できないのではないだろうか?少なくとも太平洋島嶼国が主張する伝統知識とはかけ離れた対象のはずなのだ。

2.生物多様性条約の採択と締約国会合による主導

UNCLOSとCBDの関係が議論されている。CBD科学技術助言補助機関の報告書が深海底遺伝資源の危機感を煽り、途上国がMGRを鉱物資源と同様に「人類共同財産」(CHM)に位置づけようといする動きがあったそうである。ここは興味深い。この誤解は今も続いているのではないだろうか?

3.国連での動き

BBNJの議論を時系列に、まとめている。

4.準備会合における対立構造

EUMPAを支持する立場、途上国はCHMなので平等に分けろというグループが多数。中国、インドは中間。日米加露アイスランドが新規制は不要との立場。MGRに関わる法原則、利益配分、アクセスの対立構造。区域型管理ツールに関する目的と意義、MPA指定の手続きなど対立構造。そして環境影響評価(EIA)と、能力構築及び海洋技術移転の議論。

5.科学委員会を巡る論点

科学的情報の供給組織、科学的情報ガバナンスの課題が議論されている。ここで思い起こすのは今年70周年を迎えたSPC (太平洋共同体事務局、本部ニューカレドニア、米仏豪NZと太平洋諸島26カ国と地域から構成)が ocean science centre ー 海洋科学研究所の設立をこの7月の総会で合意した事である。もしかしたらBBNJの議論を意識して、ではないだろうか?

SPC to set up Pacific Oceans 26 July 2017

http://www.radionz.co.nz/international/pacific-news/335836/spc-to-set-up-pacific-oceans

6.おわりに

ここでテーマの「海洋秩序の発展か変容か?」が議論されている。難しい議論だが、一カ所だけ引用しておきたい。「BBNJに関する実施協定の作業は、一言でいえばUNCLOSとCBDの接合(covergence)がCBDの締約国会合が先導する形で始まったことが特徴である。」

CBDの議論がよくわかっていないので今後関係資料を読み込んで行きたい。

太平洋島嶼国の立場から見るとCHMの議論は、どうやら自分たちの利益が優先される事を意味し、即ち資源の囲い込みで、内陸国などを考慮していない、ように見える。まさに今サモアで開催されている「青い太平洋」というテーマのPIF総会がそうであろう。実際は島嶼国が本来管轄すべきEEZでさえ管理開発されず無法地帯となっている。権利ばかりで義務が語られていない。

さらにNo Take Zoneを推進して来た米国が、トランプ大統領令で太平洋の海洋保護区の縮小と漁業のアクセス拡大を検討し始めた。この事はパラオキリバスで急速に拡大するメガ海洋保護区に何某かの影響を与えないだろうか?