やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

クロマグロ資源は回復する

ご静養中の天皇皇后両陛下がウナギの研究施設など視察

とのニュース。

ハゼ研究家の天皇陛下は水産資源への関心が誰よりも高いのではないだろうか?

ハゼに関する天皇陛下のご様子をそこに居合わせた方から聞く事があるが、時間になってもなかなか移動されない位、ハゼがお好きなのだそうである。

ところで、クロマグロの件で、産経新聞の佐野慎輔論説委員の記事が気になっていたのを思い出した。佐野さんは、このブログの愛読者でわざわざ声をかけてくださったり、昨年月刊正論から出した当方の記事も応援してくださり感謝している。もっと自分の活躍を書けとも言ってもらい励まされている。

「魚影の群れ」は戻ってくるか 管理漁業に未来を 論説委員・佐野慎輔

http://www.sankei.com/column/news/170226/clm1702260002-n1.html

反論的になってしまうのだが、耳障りの好い事だけを伝えるのが人間関係ではないと当方は思うので、ここに書いておきたい。

30キロ未満の未成魚の漁獲枠の件だ。

水産資源の基準となる数字をどこに取るかというのは難しい議論のようだ。昨晩たまたま平成26年に開催された「資源管理のあり方検討会議事録」をウェッブ上に見つけた。

http://www.jfa.maff.go.jp/j/kanri/other/pdf/1gijiroku.pdf

メディアやSNSで活躍中の勝川先生と同会の議長櫻本教授のやり取りが興味深い。

ここにまとめる能力が当方にはない。しかし、科学的議論以前のやり取りなのだ。

例えばこれは以前勝川先生に当方が投げかけた質問と関係して来るのだが、海外との比較の際、日本の漁業と海外のそれとでは歴史や文化、市場の在り方等々の違いがあり、そんなに簡単に比較できないはずだ。(同議事録27頁、八木委員の発言)

そして「初期資源」というのが色々と問題のある表現であることは、松田教授のブログにも詳しく議論されている。どうも誤訳らしい。。

クロマグロ「初期資源量」の2%まで減ったという根拠は?

http://d.hatena.ne.jp/hymatsuda/20160630/1467265789

そして佐野記者が批判されてる「30キロ未満の未成魚の漁獲枠を半減する措置」だが、水産研からこの措置で資源は回復するという報告書が最近出された。

クロマグロ資源の将来予測 国際水産資源研究所 中野秀樹

http://www.fra.affrc.go.jp/topics/20170124/01.pdf

「現行の管理措置を持続した場合、過去にあった低い加入が続いたとしても、2024 年に 60% 以上の確率で産卵資源量を歴史的中間値以上まで回復させるという暫定回復目標を達成することが確認されました」

この報告書の科学的議論、反論があれば是非読んでみたい。

私はちょうど2014年、日本の水産庁が、宮原さんや神谷さんが「30キロ未満の未成魚の漁獲枠を半減する措置」をまずは国内漁業者の理解を得て、WCPFC、 IATTC という国際組織の場承認を得る過程をたまたま近くで見させていただく機会を得た。これがどんなに大変な事か、日本の水産外交、海洋外交の功績であると認識しており、過小評価する事には疑問がある。

さらにWCPFCが歴史的合意をした時、私はサモアで開催されていたSIDSの会議のGlobal Ocean Commissionの会合にいた。そこでこのニュースを興奮して伝えてところ、誰もその意味がわからないのだ。加えてマグロの産卵数についても誰も知らないのだ。Global Ocean Commissionとは素人の集まりである事を知った時だった。