やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

WCPFC - 太平洋島嶼国は遠洋漁業を知らない

昨晩あげたWCPFCに関する2つのニュースに多くのアクセスがあったので、これも確認のために書いておきたい。

ミクロネシア海上保安事業を通して、太平洋島嶼国の水産業を知る機会を得た。

そこで改めて認識したのが、太平洋島嶼国は水産業を、遠洋漁業を自らやった事はないし、できないのである。太平洋で遠洋漁業を開拓したのは、日本人、いや沖縄の移民である。日本統治時代の話だ。ソテツ地獄の苦しみから逃れてきたのだ。彼等のパワーはすごかったのであろう。

第一次世界大戦で手にしたミクロネシアの島々。

秋山真之が、重光葵が、軍事・政治的利用価値しかない、と認識したミクロネシアの島々の周辺の広大な海域を開拓したのは沖縄の漁師であった。これは矢内原の南洋群島研究に詳しい。

島嶼国が歴史的、伝統的に遠洋漁業を行った記録を当方はまだ見た事がない。

その小さな人口を養うには沿岸漁業で十分であったのであろう。EEZ制定後初めて遠洋漁業の優先権が沿岸国に与えられたがその機会を活用するキャパは残念ながら島嶼国にはない。もし国内にその市場やそれを支える技術やインフラがあれば可能であろう。日本が供与した水産業用の大型冷蔵庫は度重なる停電などで故障してしまうし、修理のノウハウもないのだ。

そのような状況で、遠洋漁業の科学的数値を太平洋島嶼国が自ら入手し分析できるわけない。遠洋漁業のデータを研究する所などどこにもない。データとその分析結果を先進国の政府、NGOからもらうだけでしかない。

ましてや、そんな遠洋漁業を知らない国のオブザーバーがまともな監視や、法執行機関がまともな機能を果たせる訳がない。馬鹿にしているのではなく、島嶼国の人口規模や、水産業への関与の実態がそうさせている、という事である。繰り返すが、もし島嶼国内にその市場やそれを支える技術やインフラがあれば、即ち十分な人口があれば可能であろう。

FFA, WCPFC, PNAなど、島嶼国が主導権を握る水産資源管理機関があるが、彼等は遠洋漁業を、法施行を知らないのである。しかし、その数の力と「弱者の恐喝」という小国特有の行動形式(永井陽之介先生の本に詳しい)で、水産資源管理を間違った方向に持っていく可能性もあるのだ。