やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

クロマグロ管理は米国の言いなりか?

一橋大学で開催されたアマルティア・センの学会開催中、WCPFCの気になるクロマグロ管理会合が8月29日から9月2日まで福岡で開催されていた。

議長は宮原さんだ。今回は太平洋の東半分を管理する全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)との合同開催。

日本が主導する会議である。議案は下記の通り。

1.資源評価結果に基づく現行措置のレビュー

2.緊急ルール(※1)の作成

3.長期管理方策(※2)の検討

4.漁獲証明制度(※3)の検討

水産庁ウェッブより。

http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/160826_1.html

ところが新聞記事によると合意に至らなかったという。さらに下記の日経の記事によれば宮原議長は

「難癖をつけられて(協議が)止まってしまった印象」と記者団に対し、悔しげに振り返った。、とある。

クロマグロ規制物別れ 国際管理、漂流も 2016/9/2

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS02H4O_S6A900C1EE8000/

日本案に反対したのは米国と台湾。しかも全く反対の角度からの反対。

米国はそれでは甘い、と。台湾はそれでは厳しすぎる、と。

<米国の水産産業事情>

これを見て「ハハアーン」と思ったのは宮原さんと私位ではないだろうか?

米国の水産業、実際は台湾の漁業者が米国の旗でやっている。

この事が今太平洋島嶼国で大問題に発展しているのだ。

新たにできたPNA(Parties to Nauru Agreement)が入漁料を一気につり上げたのだ。

過去の3倍になっているという。一日魚が取れても取れなくても100万円!

米国の水産業はNOAAの一部局が行っている。そして米国は太平洋島嶼国とのバイではなく一括協定の方式を取っている。NOAAの担当者(日本の水産庁に当たる)が交渉で合意したものの、米国の水産業者がこんな高い入漁料は払えない、と合意を破棄した状況が1年以上続いている。

米国の水産業者とは台湾の漁業者である。

即ち、米国の環境NGOの影響下にあるNOAAと米国の水産業を担う台湾の意見の違いは米の国内問題としても存在している。

<米国の言いなりになりたい日本?>

新聞記事で気になったのが、米国の圧力を跳ね返した日本を批判する記事である。

当方も、米国の水産行政の実態を知らなければ同意していたであろう。

戦前米国は、アラスカ近海のブリストル湾近くで漁をする日本漁船に対し、国をあげて、ヒステリックに怒ったのである。第二次世界大戦にも繋がった一要因である。

米国は敗戦した日本にやってきて、日本の水産行政が農林省の一部局である事に驚き、こんなんじゃアカン!と庁に格上げさせたのだ。省にしろ、とまで言っていた。

それが、である。米国自身は現在商務省内のNOAA-海洋大気庁の中の一部局でしかない。いかに米国が水産行政を軽んじているかがわかる。

<米国の水産行政の実態>

下記のNOAAのサイトを見ると年間の予算1000億円程度だ。

http://www.nmfs.noaa.gov/mb/financial_services/docs/noaa_fisheries_2017_budget_briefing.pdf

日本の水産庁の予算は約2,500億円。戦後日本の水産行政を指導した米国は日本の半分以下である。

しかもNOAAの水産部局の担当者のレベルが問題。何人かと会った事があるが、魚の事を知らない!日本の水産庁の役人は批判も多くあるようだが、東大とか海洋大学を出て、水産行政に一生を捧げている人ばかり。

NOAAの水産関係雇用者は4,800人でこれが6つの地域事務所、6つの科学研究所そして20カ所以上の試験場に分散しているという。ちなみに米国のEEZは世界一である。

そんな米国の水産行政を、政策の言いなりになっていいのだろうか?

しかも彼らはプロパガンダ環境NGOのPEWとの関係も深い。人材が行ったり来たりしている、と聞いた事がある。

<太平洋島嶼国の視点>

今回のWCPFCの会議に参加した太平洋島嶼国はクック諸島とバヌアツ。

バヌアツ ー これも「ハハアーン」と思ったのは当方だけではないだろうか?

バヌアツ人が遠洋漁業をしてるわけではない。ほとんどがバヌアツの旗で操業する台湾漁船である。クック諸島もそうではないか?と想像する。調べればわかるであろう。

バヌアツはしばらくEUから違法操業イエローカードを示されていた。法執行なんてなきに等しいので台湾漁船が違法操業をしていた可能性がある。

と言う事は、日本案を厳しすぎると反対したのは台湾だけでなくクック諸島、バヌアツもその可能性がある。だから十数カ国の太平洋島嶼国のメンバーの内、クック諸島、バヌアツだけがこの会議に参加した、のかもしれない。

ここら辺はハイポリティクスなので、公式な情報として出て来ないのだ。カクテルパーティでしか、即ち非公式でしか情報を収集できない。