やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

パルド大使と人類共同の財産(2)

 

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坂元茂樹著、「深海底制度の成立と変遷 ー パルド提案の行方 ー」 p. 263-286 『海洋法の主要事例とその影響』(現代海洋法の潮流 第2巻)栗林、杉原編集。2007年、有信堂高文社。

指導教官のペーパーを取り上げるのは緊張するけれど、当方の誤解も含め書くことで理解が深まるかもしれないので、書いておきたい。安倍総理のマルタ訪問をきっかけにパルド大使を追い出したが、この議論は重要な気がして来た。

1967年11月1日にパルド大使が国連で行った4時間に渡る演説は、深海底資源開発の国際レジームを提案したものであったが、これがどのように変遷するかが書かれている。これは現在議論が進むBBNJの議論にも関係して来るのではないだろうか?

坂元論文は下記の構成である。

はじめに

1. パルド提案の衝撃

2. 国連海洋条約における深海底制度

3.深海底制度実施協定の成立

おわりに

p. 265-267までは「隣接性」について議論が展開されている。 まずは大陸棚条約にある沿岸の「隣接性」について小田滋、高林秀雄の解釈議論が紹介されている。前者は沿岸国の主権的権利の下、新海底資源が先進国の取り尽くされるという解釈。後者は「海底区域に対する沿岸国の主権的権利の無制限な拡大を許さないとの意味が含まれている、..」と解釈する。 これに対し、パルド提言は 「「隣接性」は、陸地と大陸棚との地質学上の一体性を強調し、大陸棚は法律上(ipso jure)沿岸国に属するという考え方の基礎となったのである。」(p 266)

さらにパルド提案は先進国による資源独占か、新たな国際機構による開発か、という二項対立の図式を示した。 そしてパルドは国家管轄圏外を超える海底(資源)の管理方式として後者、即ち新たな国際機構による開発を主張したのである。しかし、パルドは資源の共同所有か、共同使用か、「人類の共同財産」(以下CHM) 原則の法的内容を示していなかった。他方、資源分配を主張する新経済国際秩序(NIEO)と重なって「人類の共同財産」がイデオロギーとして機能していたのだ。p 268

続いて坂元教授は、パルドが1967年の他に1971年にも「海洋空間条約案」を提言していることを指摘している。これは200海里の国家空間とそれを超える国際空間に二分する案で、領海、接続水域、大陸棚、公海といった概念、用語も否定する。そして国家管轄圏外は従来の「公海自由の原則」ではなく「海洋の管理」という発想の転換があり、これは国連公海漁業実施協定など海洋法規則に反映されている、とのことである。

BBNJもそうなんであろう。 このCHMについて、坂元先生は杉原教授のコメント(「CHMの観念は、それ自体として固有の意味を内包するものではない。この観念の下に具体化された法制度にてらして、その法的実体を確認することができる。」)を引用しつつ、CHM原則の論理的帰結は同一ではないとし、「海洋法条約のCHM原則の法的実体を規定したのは、経済格差の拡大に不安を抱いた途上国の主張であった。」と結ぶ。 そうであれば、途上国の、特に広大な海洋に囲まれる太平洋島嶼国の主張は、BBNJ議論の中でなおさら重要なのではないか? 書き始めたら長くなってしまったので、2回に分けます。