やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

海洋法条約の誕生と苦々しいパルド演説

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1964年英国から独立したばかりのマルタ。その小島嶼国の大使が国連総会で4時間にわたる大演説を3年後の1967年11月1日した。

パルド演説 ー これが海洋法の流れを大きく変えたのだ。

この演説の記録を読んだ。感想は「???」なのだ。なんでこんな演説に世界は感動したのであろう?そんな事口が裂けても言えない、と思っていたのだが。。。

「事実は、国連当局も、またアメリカ、日本なども、突飛と思われるこの提案をいささか苦々しく受け取りました。他方、全人類の共同財産と言い、国際管理と言い、このパルドの語りかけは、発展途上国の耳には快くひびきます。その大義名分には先進諸国も逆らうべくもありませんでした。」

小田繁教授の『海洋法研究』(昭和50年、有斐閣)4−5頁にある記述である。「???」と思ったのは私だけでなく小田先生も国連事務局も同じであった!

なお小田滋教授の『海洋法二十五年』(昭和56年、有斐閣)には「…このパルド演説は、きわめて包括的で、海底制度に対するひとつの学術論でもあった。」(145頁)と前著とは違う論調で紹介されている。そしてパルド演説の中で小田教授の理論が槍玉に上がったことが紹介されている。

パルド大使の履歴がよくわからない。海洋法の専門家なのだろうか?小田教授の理論を槍玉にあげるほどの議論をしてきたのだろうか?何かおかしくないだろうか?裏に誰かがいるのでは??

私がパルド演説で唯一印象残ったのは、米国議会がパルドは英国に操られている、と批判されたことをわざわざコメントしている点だ。多分、図星なのではないか。

現在国連で協議されているBBNJが「間違ったプレゼンテーションで始まり、一部の先進国が途上国をけしかけて進めた」と言う外務省関係者のコメントが脳裏に浮かんだ。そして山本草二先生が海洋法条約の「開発イデオロギー」と「天然資源イデオロギー」を指摘していることも思い出された。