やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

なぜ日本漁船だけ取締まるのか?

ミクロネシア連邦政府の司法長官が過去に行った「保証金ふっかけ取締」を羽生前会長はじめ財団に出向していた国交省のおじさん、お兄さん達が支持する、という恐ろしい事件がなければ、私が違法操業取締にこれだけ詳しくなる事はなかったであろう。
 これも京大での研究会で話した事例である。

なぜ太平洋島嶼国は日本漁船だけ取り締まるのか?

なぜ登録せずライセンス料を払っていない、国際的取り決めを守ることもない本当の違法漁船が放って置かれるのか?

 

実際にブルーボートと呼ばれるベトナムの違法漁船を拿捕したパラオ政府官僚からの情報や新聞に書かれていたことである。

・漁師の健康状態は悪く健康診断をパラオ政府が負担する。

・拿捕した後、漁師の衣服、食料、住居をパラオ政府が負担する。

・ベトナム語を話す人材がパラオにいないので法執行が困難。

・旗国のベトナム政府は外交関係がなく連絡をしても無視。勿論ベトナムに責任を取れる漁業会社はない。

・ベトナムへの送還をパスポート手配から何から何までパラオ政府が負担する。

即ち本当の違法操業を取り締まると一銭にもならないどころか、小国であるパラオ政府に大きな財政負担と業務負担、さらに伝染病など危険を伴うのだ。

 

ところが日本漁船を取り締まると。。。

・漁師の健康状態は良好。漁船会社は法律で漁師の健康管理を行っている。

・拿捕した後、漁師自ら衣食住を管理するだけでなく、漁船のシェフが美味しい料理を作ってくれる。パラオではないが島嶼国警察がこの料理を堪能し、冷蔵庫を漁る事もあるそうだ。

・日本から親会社が英語を話す弁護士とすぐ飛んできて、法執行に何も問題ない。

・この親会社が言い値で保証金を払う。なぜか? 登録しライセンス料だけでも一日百万円位払い、法遵守している漁船なので操業できないと毎日何百万円という損になるから。

 

これでは、私でも日本漁船だけ取り締まるであろう。

問題は、財団が支援してしまった「保証金ふっかけ取締」が他の島嶼国にも波及している事だ。(パラオも罰金を億単位にわざわざ法律改正して増額している。しかしこれは罰金と保証金の違いがわかっていないのだと想像している。)これはどうにか対処した方が良いと思う。

 

 

ところで台湾漁船の場合。

拿捕されると漁船から在島嶼国の台湾大使に一報が入る。大使は島嶼国の大統領に一報を入れ賄賂を渡す。大統領から海洋警察の釈放の指示が出る。

頭が良い。

これであれば台湾漁船は損をしないし、島嶼国法執行官も余計な仕事がなくなる。

そして大統領のポケットが潤う。が、、水産資源管理や海洋環境保護はどこに?

 

<海洋法条約の関連条項>

第73条 沿岸国の法令の執行

1 沿岸国は、排他的経済水域において生物資源を探査し、開発し、保有し及び管理するための主権的権利を行使するに当たり、この条約に従って制定する法令の遵守を確保するために必要な措置(乗船、検査、拿捕及び司法上の手続を含む。)をとることができる。

2 拿捕された船舶及びその乗組員は、合理的な保証金の支払又は合理的な他の保証の提供の後に速やかに釈放される。

3 排他的経済水域における漁業に関する法令に対する違反について沿岸国が科する罰には、関係国の別段の合意がない限り拘禁を含めてはならず、また、その他のいかなる形態の身体刑も含めてはならない。

4 沿岸国は、外国船舶を拿捕し又は抑留した場合には、とられた措置及びその後科した罰について、適当な経路を通じて旗国に速やかに通報する。