やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

パラオ政府ベトナムの違法漁船を燃やす

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パラオ政府がベトナムの密漁漁船を燃やした事が英語圏だけでなく日本でも話題になっており、賛否両論のようだ。

ベトナム密漁船を洋上焼却 パラオ、乗組員は国外退去

http://www.sankei.com/photo/daily/news/150613/dly1506130005-n1.html

違法操業と言えば、残念ながら「日本」なのだ。

なので今回の漁船を燃やす行動が日本の操業に影響がないか若干心配である。

現実は、日本漁船は今回燃やされたベトナム密漁船と全く違うのだが、過去の日本の対応のまずさから世の中一般に、特に米豪の海軍沿岸警備隊を中心にその印象を植え付けてしまった事は否定できない。

当方は、2008年にミクロネシア海上保安事業を立ち上げるとき「日本が違法操業監視なんて、ご冗談でしょう?」と米豪、島嶼国の政府職員から何度も言われた。

<日本カツオ漁船拿捕事件で学んだ事>

年初に読売新聞に掲載されたミクロネシア連邦での日本カツオ漁船拿捕の事件で違法操業の件を詳しく知る事になった。

多くの日本漁船は違法操業の「疑い」で拿捕される。これが裁判まで持ち越され白黒が着く前に、示談金で解決される。

なぜか?

裁判までの数ヶ月その漁船は操業できないし、裁判にかかる費用やなんやらを差し引いても、示談金で済ました方が徳だからである。しかも示談金は保険料でカバーされる部分もあるようだ。

そうすると、船から空き缶を捨てたとか、網に引っかかった鮫を記録しなかったとか、これのどこか違法操業?と思えるような罪状で、数千万円から億近い示談金を払う日本漁船が次々と拿捕される事になる。

これらの日本漁船はきちんと漁船登録し、数千万円から億の漁業料をミクロネシア連邦政府に払っているのだ。しかも財源が少ない島嶼国の国民の生活を支えている。

最悪な事に日本漁船の取締をするのはド素人。遠洋漁業とは何かを全くわかっていない太平洋島嶼国のオブザーバーと呼ぶ監視員や、漁業を知らない米豪の海軍や沿岸警備隊によって今まで名ばかりの「監視」がされてきた。

さらに拿捕する小島嶼国の法執行能力も今回のミクロネシア連邦政府のように国際常識から乖離している、という構図なのだ。

しかし結論として、違法操業=日本漁船 とう「イメージ」が世界に植え付けられてしまった。

<複合的違法操業=アジアのブラックマーケット>

次に今回の燃やされたベトナム船。

登録もしていなければ、パラオ政府に漁業ライセンス料も払っていない。

ダイナマイトまで使って沿岸で違法操業も行っている。

おまけに捕まっても母国政府は知らん顔だし、示談金も罰金も払えない。

帰国費用まで、財政難の小国パラオがカバーする事になる。

そして何より重要なのは下記のパラオ大統領府のプレスリリースにあるように彼らが穫った魚は「アジアのブラックマーケット」に売られて行く、ということだ。

25メトリックトン、とあるがどれほどの量か当方はわかりません。

ベトナム密漁船を発見したのは日本の水産庁取締船>

さらに重要なのはこのような密漁船が何十、何百とパラオEEZにいる事を最初に発見したのは、日本の水産庁の取締船「みはま」なのだ。この取締船は昨年試験的派遣され、数十日の取締活動で海難救助から、パラオEEZに蜘蛛の子を散らしたように多数存在する密漁船をすぐに確認した。(5月の島と海のネット会議で、水産総合研究センター理事長の宮原氏が公表している)

この海域を護っているはずの米豪は何もしていなかったのだ。当たり前だ。彼らは遠洋漁業とは何か、違法操業とは何か、何も知らないのだ。真面目にVMS(Vessel Monitoring Systems)を付けている漁船しか監視できていない。

<PNAの動きと日本の支援>

このベトナム船の記事と同時にその動向が気になっていたのが6月11-12日にポナペで開催されたPNA会議である。

PALM7で安倍総理とレメンゲサウ共同議長の下、採択された福島磐城宣言はマグロの資源管理と日本の役割を明記したものである。その直後のPNAだ。

http://www.pnatuna.com/node/263

この中にSIDSの国内漁業を妨害する外国船の閉め出しに関連し、PNA担当大臣は日本と有効な協議がもてた、とある。ー どんな協議をしたのであろう?

またパラオの海洋保護区についても協議されている。さらに詳細な情報をパラオ政府から提供してもらいPNA, FFA, SPCで分析したい、とある。必ずしもパラオ案を歓迎という雰囲気ではなさそうだ。

<海洋安全保障と漁業>

要は、本来米豪が護るべき太平洋島嶼国のEEZは放ったらかしされてきた、という事である。

要は、繰り返すが日本がその責任を、日本財団の支援だけではなく、オールジャパンで、特に水産庁の取締船派遣を強化、拡大する必要がある、という事だ。

海洋安全保障と漁業。

一見離れているように見えるが、100隻以上の米海軍の船が公海での漁船検査活動に登録しているように表裏一体の部分もある。

海保だけでなく、水産庁海上自衛隊、加えてアジアのブラックマーケットを支える怪しい資金を把握しているかもしれない財務省。特に太平洋の遠洋漁業で100年の歴史を持つ日本の水産業とそれを支える水産庁との協力は重要だ。

Serial # 07-06706/11/2015Office of the PresidentDeputy Press SecretaryOlkeriil KazuoPRESS RELEASE Palau...

Posted by Office of the President, Republic of Palau on 2015年6月12日