やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

水産庁取締船と安保法案

京大で開催された研究会で質問を受けて思い出した件である。

 

水産庁取締船のパラオ派遣。

水産庁がやる気になって、しかも受けるパラオ法執行機関は大喜び。

約500トンの「みはま」のような取締船がパラオEEZを監視するのだ。しかもタダで。

船のメンテも運営費もいらない。パラオは法執行官を乗せるだけ。

さらに漁業取締活動のノウハウを水産大国日本からOJTで学べるのである。
ところが当初この取締船派遣に反対したのが日本の外務省と法務省であった。

理由は

「逆のパラオ法執行船が日本のEEZで監視活動を支援する事はありえない。」

 

思わず頭をか抱えた。もし日本の人口が2万もいなくて法執行能力に限界があればどうにかして支援を受けるでしょう?米国も誰も支援しないからパラオ政府はシーシェパードと監視協定を締結したのではないか!

 

もう一つの壁があった。

当時議論されていた安保法案である。

これは水産庁の担当官は詳しく教えてくれなかったので、以下当方の想像も含む。

法執行船とはいえ日本の公船が他国の法執行、取締を支援するのである。

笹川平和財団のミクロネシア海上保安事業は法執行に限って支援することで開始した。しかし現場を見ると豪州や英国系列の国は海軍が法執行権を持ち、沿岸警備隊のある米国も海軍の船に法執行官を一人乗せる事で法執行船と認識する、などlaw ship とwar shipの区別が曖昧なのである。

日本が特殊なのかもしれない。

 

パラオの法執行官が乗船し、パラオ政府の取締の範囲であっても取締船とその運用を提供している日本の責任を問われる可能性がある、というのが外務省の弁、らしい。

例えばフィリピンの違法操業船を拿捕した場合、取締責任がパラオ政府にあっても日本とフィリピンの関係に影響が出る可能性が発生する。

外務省と法務省はこの件をクリアすべく日本政府とパラオ政府の間で覚書を締結したのだそうである。

これを担当していたという外務省のアルバイトの若者に偶然会うことができた。外務省内でかなり協議があったとのこと。

何はともあれ、結果オーライ。

これで晴れて水産庁取締船がパラオEEZを守れるようになったのだ。

先例ができたのだから、今年の島サミットの目玉事業として隣のミクロネシア連邦やパプアニューギニアにもこの制度を広げたら良いのではないか? 

運営管理能力に限界のある島嶼国への新たな監視艇の供与を反対してもシップライダーズによる海洋監視制度を米豪含め反対する国はいないであろう。できれば漁業監視とは何かを知らない豪州海軍や米国沿岸警備隊も乗船させてあげれば日豪米の海洋監視協力事業として安倍政権のインド太平洋戦略の具体的一歩となるのではないか?