やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

読書メモ「雑誌『改造』にみられる「地政学」の記述について」

昨晩偶然見つけた高木彰彦教授のペーパーの読書メモ。

「雑誌『改造』にみられる「地政学」の記述について」

https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/3707/KJ00004171961.pdf

1980年に国際関係論の中で議論が開始した「批判地政学」の視点で日本の地政学が当時の国民に与えた影響を戦争中に地政学を扱った大衆雑誌『改造』を中心に分析したもの。

地政学を3つに分類する研究がある。

1 実践地政学

2 形式地政学

3 大衆地政学

Geopolitikは、スウェーデンのKjellenが創出し日本では1925年に初めて紹介。

日本の地政学運動

1 1941年11月に東京で設立された「日本地政学協会」

2 京都大学地理学講座の教授小牧賓繁を中心とした京都大

学出身者によって展開されたグループ

3 時局迎合派

興味深いのは

「むしろ、地理学関連の雑誌では学術誌というより師範学校の教員や一般向けに出版されていた月刊誌『地理学』や『地理教育』に地政学の影響は大きい。とりわけ、戦争中には毎号のようにタイトルに「地政学」を冠した論文や記事が掲載され、しばしば地政学関連の特集も組まれていた。」

という箇所である。地政学が純粋な学問というより大衆プロパガンダになっていた、ということであろうか?

大衆雑誌「改造」とは?

左翼的な読者層にも読まれており、社会主義者の多くが執筆陣に加わっているのが特徴、とある。

労農派マルクス主義者の執筆が多かったが、総力戦体制期に入り、1937年12月および翌38年2月の第一次・第二次人民戦線事件で、労農派の評論家・教授グループの多くが検挙されると、これらの人々に代わってリベラル派の執筆、即ち近衛内閣のブレーントラストだった「昭和研究会」のメンバーが執筆陣に。彼らの唱えた「東亜協同体」論はこの雑誌を通じて一般大衆に普及。

即ち日本の地政学は大衆雑誌「改造」のマルクス主義を基盤にリベラルに転向しつつ「東亜共同体」を普及させた、ということであろうか?

続いて高木彰彦教授は6人の地政学者(佐藤弘、江澤譲爾、小牧賓繁、室賀信夫 、蝋山政道、吉村正)について分析している。特に蝋山政道について2頁以上書いている。ここは次回。