やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

インド太平洋研究の必要性 ー 「海のアジア」vs「陸のアジア」

f:id:yashinominews:20181111140738j:plain フリードリッヒ・ラッツェル

私が太平洋島嶼国に仕事として関わったのは1991年からで、大の男が4人がけで転けさせたで30億円の笹川島嶼国基金をマイナスの状態から、即ちその目的から策定した。
必死で勉強した資料中で、渡辺昭夫先生が書かれたものが一番しっくり、はっきり言うと「まとも」と思えた。(その理由は同志社の浅野亮教授の授業を受けて初めてわかった。太平洋研究は平和研究ばかりで安全保障は渡辺先生しか書いていなかったのだ。)USPNetを第一回島サミットで日本のODA案件までもっていった後、体系的に太平洋の情報通信政策を学びたいと2つ目の修士論文(一つ目は教育学です)を青山学院の渡辺先生の下で国際政治学として研究する機会を得た。
修士を取ってから渡辺先生に島嶼国基金の運営委員長をお願いし、島嶼国基金の理論的構築を目指したのだ。2008年に私が立ち上げたミクロネシア海上保安事業はその基盤の上に作り上げた事業である。
誤解している人が多いのだが、笹川平和財団は誰も太平洋島嶼国の事も海洋安全保障の事も、国際政治すらも知らないのである。業務指示を受けた事は一切ない。だから私は渡辺先生のような外部の専門家を頼って一人で事業を進めて来たのが実態である。
 
さて、インド太平洋研究会を開始するに当たって渡辺先生にもアドバイザーをお願いした。そして趣旨を書く際に渡辺先生が書かれた『アジア太平洋連帯構想』(2005年、NTT出版)を手にした。帯には「海のアジア」か「陸のアジア」かと書かれている。陸のアジアとは中国の事である。そこに波多野澄雄著『太平洋戦争とアジア外交』が良質の研究書として紹介されていた。
早速ウェブで検索すると下記に2つの論文が入手可能であったので拝読。ドイツのハウスホーファーの地政学の影響が出て来るではないか。
 
戦時日本の 「地域主義」 と 「国際主義」
1996-11-30
 
「地域主義」をめぐる日本外交とアジア
日本国際問題研究所国際問題 (578) 10-21 2009年
 
戦時日本の 「地域主義」 と 「国際主義」 の論文の43頁にインド太平洋の分岐点にアジアがあり「濠亜地中海」と呼ばれ、オーストロネシア語族の共通点が書かれている。面白いのは当時まだオーストロネシア語族が海洋民族で数千キロを行ったり来たりしていることは知られていなかったらししく、古代大陸が連結していたのが分離して島嶼国のなったという記述がある点だ。
重要なのは、開かれたアジア太平洋地域と、ハウスホーファーや蝋山が生命圏という言葉で現した閉じた地域主義があった事だ。この二人に共通するのは英米の排斥である
安倍政権のインド太平洋で「自由で開かれた」という形容詞をつける事がどれだけ重要な意味を持つのか。これは「海のアジア」を語る時、特に重要だある。大陸秩序と海洋秩序はカール・シュミットが言うように違うのだ。海洋は自由で開かれている。多分ここに「陸のアジア」である中国の空間秩序が侵入してきているのが現状なのではないか?
フリードリッヒ・ラッツェルも重要だ。これもウェブで幾つかアクセスでる。田中和子教授の「フリードリッヒ・ラッツェルの日本論」は面白かった。ドイツ人の日本に対する視線が日本の地政学に影響を与えた部分はないだろうか?
 
田中教授は現在京都大学にいらっしゃる。
 
この論文も読んで見たい。
エレン・チャーチル・センプルの生きた時代と彼女の地
理学研究 : 恩師ラッツェル宛て書簡と同窓生通信を手がかりに
 
 下記は山口幸男教授の論文
「ラッツェル『人類地理学』に関する地理教育的論考察」