続いて新渡戸の植民論を扱った下記のペーパーのメモ。
これも以前読んで再読したいと思っていた論文だ。
平瀬徹也 「新渡戸稲造の植民思想」『東京女子大学附属比較文化研究所紀要』 (通号 47) 1986 年
筆者の平瀬徹也氏は東京女子大学を2002年頃退官されたようである。歴史研究者。
最初に新渡戸の人種観が書かれている。新渡戸が白人を尊敬し、アジア人を軽蔑していたか?
人種間に優劣がある事を認めていた。それは「植民」をギリシャ時代から概観していた新渡戸の視点であろう。また人間に優劣があるのではなく、その社会に優劣がある。植民する側とされる側、と言ってよいであろう。
但し新渡戸は植民が相互作用である事も十分認識していた。例えばアレキサンダー大王のインド植民で、インド文化が逆にギリシャにもたらされて事等が書かれている。
そして新渡戸の植民地観は、政治的侵略、領土拡張(ハウスホーファーの地政学のような)ではなく、経済上の発展である事が書かれている。
植民策の原住民の対応については、本国人の威厳を保つ必要とともに原住民の為の有益を主眼におくことが本国の神聖なる義務である、とこれは国際連盟規約にある通りだ。
新渡戸の植民地終局目的について書かれている。これは海洋ガバナンスの人類共同の財産に近い議論だ。
新渡戸が世界土地共有論を唱えていた事は重要だ。しかし、新渡戸の共有というのは「土地の有効利用論、高度利用者優先論」である事を平瀬は指摘する。それは原住民の利益を守ったものであることも平瀬は指摘している。
最後に満州事変に対する新渡戸の認識は、よくある転向者論は誤りである、と新渡戸の植民政策から、平瀬は指摘している。新渡戸は満州国成立以降、門戸開放を主張していた。石橋湛山が同様な満州門戸開放論を唱えていたことを平瀬は指摘する。
もし、後藤・新渡戸・矢内原の植民論と、地政学に影響を受けた植民論というのがあれば、その違いは原住民対応とこの門戸開放政策であろう。この点は太平洋島嶼国の海洋ガバナンスに応用できるような気がするのだけれど。。