やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

読書メモ『大東亜戦争と「開戦責任」』中川八洋著

 波多野澄雄先生のアジア主義の本を再度図書館に借りに行ったら隣にあった本である。面白くて一気に読んでしまった。多分江崎先生のコミンテルンの本を読んでいなければ「トンデモ本」と思ったかも? そもそも意味不明だったかもしれない。

 江崎先生の主張と同じく日本の南進の背景にはゾルゲ、尾崎の共産主義、親露がある。これに加えて南進は、反米を掲げ、日露戦争以来の権益を拡大しようとした、日本海軍の国益無視の背景があるという。ここまでは江崎先生は議論を展開していなかった気もするが。

 よって中川氏はアジア主義は悪である、という結論だ。共産主義思想、英米排除、親露であり小児病的でもあると。そうであれば少し読み始めて止まっている波多野澄雄先生の重光の東亜共栄圏の議論が関連してくる。重光は英米排除ではないアジア主義を戦争目的にしようとしていたのだ。戦争が始まってから、なのであるが。

 そこで安倍政権の自由で開かれたインド太平洋構想も繋がってくる。これは英米排除どころか、英米が最初から入っている。ロシアはどうだろう?

 

 何箇所かメモしておきたい箇所がある。

 

1. 米国のパニック的「恐日ノイローゼ」 米国の日本海軍に対するパニックは、3回あった。米西戦争中にハワイを奇襲するのではないか? 日本がフィリピン・アラスカを侵攻するのではないか?日本の南洋統治で米領のグアム・フィリピンを占領するのではないか? P. 161-162

 

2.アジア主義は反英米のマルクス主義、反自由主義、として近衛外交政策となった。p. 166-167

 

3. 対露外交に関する後藤新平への批判がされている。しかし私の限られた知識では1919年パリを訪れていた後藤の宿にロシアのヨッフェが何度か訪ね、革命の様子を伝えている。なので後藤がロシア理解を間違っているようにも思えないのだがここは素人見当だ。しかし後藤の家族には左翼活動家が多いのは事実だし、後藤自身も社会主義者であったはずだ。

 

さあ、波多野澄雄先生の本を再開しよう!こっちは学術書で読んでいて肩がこるのだがこれも面白いよ!