マルクスが影響を受けたローレンツ・フォン・シュタイン。マルクスの共産党宣言にある「共産主義という亡霊」と表現したのはシュタインである。それもネガティブな意味で。
この事を、昨年聴講させていただいた阿川尚之先生のゼミで話したところ、整理して発表せよという展開になり、5月のゴールデンウィークは10日間研究室に閉じこもってシュタイン研究がどうなっているのか勉強した。面白かったし、シュタインの外観を何となく理解できた、と思う。
但し、その論文を読み込んではいない。その余裕も気力も能力もないが、気になったのが昭和24年に猪木正道氏と五十嵐豊作氏がなんと同時に和訳している『社会の概念と運動法則』だ。なぜ1949年に?なぜ二人が?
考えられるのが日本の共産主義革命、敗戦革命の脅威だ。
ケルゼンの「国際法原理論」と並行して読むことにした。1990年の森田勉氏のミネルヴァから出ている訳本である。
『社会の概念と運動法則』は1850年に出版された"Geschichte Der Socialen Bewegung in Frankreich: Von 1789 Bis Auf Unsere Tage" (全3巻)の序説である。
文書量としてそれほど多くないのだが難しい。しかし非常に面白い。そしてなぜ猪木・五十嵐豊作氏が同時に訳したのか納得できた。共産主義をしっかり批判しているのだ。
なぜマルクスが流行ってシュタインが忘れられているのか?マルクスの扇動的な文章の方が軽くてすんなり入ってくる。マルクス・エンゲルスは教養のないプロレタリアトにも共感できるように書いたのではないか?
シュタインは読むのが辛い。
共産主義批判の部分。98頁だ。
「事実上このようにして共産主義は、自由の名においておそらく我慢できるものと説明できるような貧困を生み出すのみでなく、また平等の理念と絶対的に矛盾する真の奴隷制を生み出すであろう。」
こんなのそこら辺のプロレタリアトが理解できるわけがない。意訳してみた。
「現実問題として共産主義は、自由という美名の下で我慢させられる貧困を我々に押し付けるだけでなく、平等の理念と叫ぶその口先とは全く矛盾する真の奴隷制を我々に強制するのだ!打倒共産主義!」
大衆は、プロレタリアトは扇動されたいのである。理性も理論も不要なのだ。
シュタイン先生には運動家のエンゲルスがいなかった。そして貧困を逃れるために売れる本を!というマルクスのえげつなさがなかったのではないか。