コロナ緊急対策 ー 米国のドラスティックな対応の背景には大統領令 Executive Order:EOがあることはなんとなく想像していたが大統領のいないニュージーランド、オーストラリアの緊急事態対策の法的根拠はどうなっているのか気になった。
話がずれるが大統領のいるパラオなどはこのEOがしょっ中発令されている。
Tweeterで誰かご存知ないですか?と聞いたら誰かが教えてくれた。
矢部 明宏。英連邦諸国(イギリス、ニュージーランド、カナダ)の緊急事態法制 : 大災害時の緊急権行使と緊急事態管理の仕組み。2012-03 特集 大規模災害対策法制。外国の立法 : 立法情報・翻訳・解説 / 国立国会図書館調査及び立法考査局 編
そもそも緊急権の定義ですら議論があるのだ。英連邦諸国のイギリス、ニュージーランド、カナダでは緊急権は国王大権と制定法の微妙な関係の中で、それぞれの国で醸成されている。
ここで私が気になった箇所を引用してそこだけ読んだ人は誤解をしてしまうのではないか、と思えるような複雑な議論である。なので下記の引用とメモはその範囲で(もしこのブログを読んでいる方がいれば)参考にしてほしい。
まず緊急権だ。「権力な異常な集中及び立憲主義の一時的停止を伴うことが特徴」とまとめている。そして憲法学者の芦部信喜氏の定義が『憲法学I 憲法総論』(有斐閣、1992、p.65)から引用され紹介されている。引用文は省略します。
ニュージーランドに関しては1931年のネピア大地震に対する緊急権の例から紹介されている。「無制限の委任立法を行う権限の規定」が盛り込まれた。この委任立法も根拠がOrder of Council 総督令であるがこれが国王大権と理解して良いのか? そして無制限の権限の規定をヘンリー8世条項 Henry VIII clauseと呼ぶのを初めて知った。ヘンリー8世はエリザベス1世のお父さんで、教皇の意思に反して離婚したいがために宗教改革を行った王様である。
ニュージーランドは1959年に民間防衛省 MInistry of Civil Defence を設立。背景にあったのが核戦争の脅威。
https://www.civildefence.govt.nz
さらに緊急権をめぐる背景・事例の詳細が紹介されていて興味深い、が省略。
日本には参議院の緊急権があると誰かが教えてくれたが、この矢部論文では「平常時の制度の延長に過ぎず、緊急権の範囲には属さないと考えられている」とある。私はこの議論は知らないのだが、ちらっと読んだ範囲では矢部論文の指摘が正しいような気がする。
矢部論文は日本の緊急権についても完結に(でも議論は複雑)まとめているがそこは省略して、英連邦3カ国との比較が書かれているのでそこを少しメモしておきたい。
日本と英連邦3カ国の類似点として
1 総督令も緊急政令も委任立法だが法律と同等の効力を有する
2 総督令も緊急政令も統制は一定期間の後議会の議決等によって失効
相違点
1 総督令は憲法との関係において国王大権に基づく制定法を根拠。緊急政令は憲法上の緊急権制度と言えるが明確ではない。(この明確ではない、という箇所が日本の問題では?)
2 総督令は議会開会中でも制定できる。緊急政令は閉会中かかいさんの場合でないと制定できない。
3 総督令は制定時広範囲に人権関係法をのぞいてほぼ限定がない。緊急政令は生活必需物資の配給・譲渡・引渡しの制限・禁止など3項目に限定されている。
2011年の東日本大震災よく年に出されたこの論文はこの大震災を受けて議論が高まることが予想される、と結んでいるが今回のコロナ対応を見ていると議論は消えてしまっていたのではないか?国王大権、大統領令がない日本。天皇大権で急に「おことば」のことを思い出してその法的関係を議論しているペーパーも見つけた。次回はこれをまとめたい。