やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて30年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

君主大権と緊急権 ー 天皇陛下のおことば

英連邦諸国のニュージーランドの緊急権の法的根拠が国王大権である事を知って、天皇大権はどうなっているのか?そういえばあの「おことば」に関する法的議論はどうなっているのか?と思い検索したら良質な論文に出会えたような気がする。「ような気がする」と書いたのは自分の専門分野でもないのでその範囲でしか判断できないからだ。

筆者の藤田 宙靖氏は、ウィキによると日本の法学者。元最高裁判所判事(2002年9月30日 - 2010年4月5日)。東北大学名誉教授、日本学士院会員。皇室会議議員。 それでも筆者は論文の中で自分は天皇制の専門でも憲法学者でもないと立場を明確にし、朝日新聞のインタビューがきっかけでこの論文を書くことになった事を明記されている。

 

藤田 宙靖 「国政への関与」──「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」(平成二八年八月八日)の法律学的検討 日本學士院紀要 /74 巻 (2019) 1 号/ 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tja/74/1/74_1/_pdf/-char/en?fbclid=IwAR3sch4fIWJPnzX9xWAbozS24tmyFL7xrYaLOvepLCFEvlFCOjbK63uVEr4

 

天皇のおことばが国政に関与しているかどうか、憲法違反かどうかが詳細に議論されていて、藤田氏の見解はそうではない、と言う事だが議論は複雑でここにまとめる力は当方にない。

ただ、この論文を読んで初めて知ったことがある。藤田氏は「幸か不幸か」天皇のおことばは国民を動かすことができなかった、と書く。「その一方でしかし、」と議論は続くのだが省略。

そして特例法案の構想に接した陛下は「これでは自分が我儘を言っただけのことになってしまう」と大変憔悴された話が漏れ聞こえて来る、とある。実はこの論文を読んで1週間ほど経つが詳細な議論は頭に残っていないのだがこの部分だけが強く記憶に残っている。

象徴天皇を日本に押し付けた米国や英国は大統領令や国王大権を最大限に活用しているではないか。方や日本は国の創造者を憔悴させているのだ。しかもその子孫を殺そうとまでしている。東北震災の日本政府の、時の首相の事を思い出すだけでも十分であろう。「東北地方太平洋沖地震に関する天皇陛下のおことば」に関する法的議論はされていないだろうか?あれで国民は、日本国家はかなり救われたはずだ。

 

君主大権の議論はやはり難しい。白黒ではもちろん語れないし、天皇に関しては「象徴」とは何かの議論に行き着いてしまう。

しかしここで思うのは「象徴」という言葉が米国から押し付けられ、日本人自ら考えて作成された概念ではない、ということの証左に他ならないのではないか。

もし「象徴」が新渡戸論文から(原文は英文)の引用であれば下記の通りである。

「神道の自然崇拝は国土をば我々の奥深きたましひに親しきものをたらしめ、その祖先崇拝は系図から系図へと辿って皇室をば全国民共通の遠祖と為した。我々に取りて国土は、金鉱を採掘したり穀物を収穫したりする土地以外の意味を有する ー それは神々、即ち我々の祖先の霊の神聖なる棲所である。又我々にとりて天皇は、『法律国家』[Rechtsstaat]の警察の長ではなく、『文化国家』[Kulturstaat]の保護者でもなく、地上に於いて肉身を有ち給う天の代表者であり、天の力と仁愛とを御一身に兼備し給うのである。ブルートミー氏が英国の王室について「それは権威の像たるのみではなく、国民的統一の創造者であり象徴である、」と言ひしことが真であるとすれば、(而して私はその真なることを信ずるものであるが)、この事は日本の皇室に就いては二倍にも三倍にも強調せらるべき事柄である。」(「武士道」新渡戸稲造全集第一巻 2001年 36-37頁より。下線は当方)