やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて30年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

原爆投下に対する日本政府の抗議1945/8/10

江崎先生が指摘していた、アントニオ・カッセーゼ博士(レーリンクの友人であり著名な国際法学者で私が博論の中心に彼の自決権の議論を持ってくる予定にしている)が高く評価したという1945年8月10日に日本政府が出した抗議文。ツイッターの方で呟いたら、いろいろ情報が出てきました。2007年の朝日がきちんと書いている。意外です。

 

ポツダム受諾の「聖断」直前、東郷外相が原爆抗議を指示

2007年08月30日13時09分 朝日新聞

 

 戦争の終結をめぐって話し合われた1945年8月9日の御前会議が始まったのとほぼ同じ時刻に、当時の東郷茂徳外相名で、原爆の投下について米国に抗議するよう指示する電報が打たれていたことが、外務省が公開した文書でわかった。御前会議は約2時間半で終わり、ポツダム宣言の受諾が決まった。現在までを通じて、これが原爆投下に対する唯一の抗議となった。 

 公開された文書の中に「大至急」と書かれた1枚の公電がある。発信は45(昭和20)年8月9日午後11時55分。《6日、米国飛行機数機、広島市に来襲。新型爆弾を投下せる為、市民多数に死傷者を出し、家屋もまた大半倒壊または焼失せり。その被害の甚大なるは到底従来の爆弾に比較し得ざるものなり。よって帝国政府は別電のごとき抗議を米国政府に提出いたしたきにつき――》 

 原爆投下について、スイス政府などを通じて抗議するように駐スイスの加瀬俊一公使へ指示する東郷外相の公電だった。 

 じつは加瀬公使も、原爆に抗議すべきだと考えていた。すでに公開されている別の文書によると、8日午後10時半(日本時間9日午前5時半)、入れ違いで東郷外相にあてた至急電でこう述べている。《大々的にプレスキャンペーンを継続し、米国の非人道的残忍行為を暴露攻撃すること、緊急の必要なり……罪なき30万の市民の全部を挙げてこれを地獄に投ず。それは「ナチス」の残忍に数倍するものにして……》 

 東郷外相は、原爆投下やソ連参戦を受け、戦争終結を急ぐべきだと考えていた。しかし「本土決戦論」などを唱える陸軍側との間で議論が紛糾。天皇の判断を仰ぐために御前会議が開かれたのが、9日午後11時50分ごろだった。 

 御前会議さなかの10日午前1時には、東郷外相名で、加瀬公使あてに「別電」で《本件爆弾を使用せるは人類文化に対する新たな罪悪なり》と1029文字からなる抗議文が追加されている。 

 御前会議は、昭和天皇の「外務大臣の意見に賛成である」という「聖断」が下り、午前2時半に終結。国体護持だけを条件にポツダム宣言を受諾することが決まった。 

 戦後、政府は一度も原爆投下に抗議していない。今年7月に閣議決定された政府答弁書は「米国に抗議を行うよりも、核兵器が将来二度と使用されるようなことがないよう、現実的かつ着実な核軍縮努力を積み重ねていくことが重要である」と述べている。 

 作家の保阪正康さんの話 まさに御前会議が始まるタイミングで打電していることは興味深い。原爆の影響を軽視しようとする陸軍に対して、東郷外相は、抗議したという既成事実をつくろうとしたのかもしれない。東郷外相は8日には、原爆について天皇に奏上している。抗議には天皇の意志が働いていた可能性もある。

 

http://www.asahi.com/politics/update/0830/TKY200708290328.html

 

下記に抗議文も紹介されています。抗議文の英和もありますのでコピペします。

https://blog.goo.ne.jp/charotm/e/0350ff0bdc4421b16bbf419a468b9fff

米国の新型爆弾による攻撃に対する抗議文

 本月六日米国航空機は広島市の市街地区に対し新型爆弾を投下し瞬時にして多数の市民を殺傷し同市の大半を潰滅せしめたり。
 広島市は何ら特殊の軍事的防衛乃至施設を施し居らざる普通の一地方都市にして同市全体として一つの軍事目標たるの性質を有するものに非ず、本件爆撃に関する声明において米国大統領「トルーマン」はわれらは船渠(せんきょ)工場および交通施設を破壊すべしと言ひをるも、本件爆弾は落下傘を付して投下せられ空中において炸裂し極めて広き範囲に破壊的効力を及ぼすものなるを以つてこれによる攻撃の効果を右の如き特定目標に限定することは物理的に全然不可能なこと明瞭にして右の如き本件爆弾の性能については米国側においてもすでに承知しをるところなり。

 また実際の被害状況に徴するも被害地域は広範囲にわたり右地域内にあるものは交戦者、非交戦者の別なく、また男女老幼を問わず、すべて爆風および幅射熱により無差別に殺傷せられその被害範囲の一般的にして、かつ甚大なるのみならず、個々の傷害状況より見るも未だ見ざる惨憺なるものと言ふべきなり。

 聊々交戦者は害敵手段の選択につき無制限の権利を有するものに非ざること及び不必要の苦痛を与ふべき兵器、投射物其他の物質を使用すべからざることは戦時国際法の根本原則にして、それぞれ陸戦の法規慣例に関する条約付属書、陸戦の法規慣例に関する規則第二十二条、及び第二十三条(ホ)号に明定せらるるところなり。

 米国政府は今次世界の戦乱勃発以来再三にわたり毒ガス乃至その他の非人道的戦争方法の使用は文明社会の輿論により不法とせられをれりとし、相手国側において、まづこれを使用せざる限り、これを使用することなかるべき旨声明したるが、米国が今回使用したる本件爆弾は、その性能の無差別かつ惨虐性において従来かゝる性能を有するが故に使用を禁止せられをる毒ガスその他の兵器を遥かに凌駕しをれり、米国は国際法および人道の根本原則を無視して、すでに広範囲にわたり帝国の諸都市に対して無差別爆撃を実施し来り多数の老幼婦女子を殺傷し神社仏閣学校病院一般民衆などを倒壊または焼失せしめたり。

 而していまや新奇にして、かつ従来のいかなる兵器、投射物にも比し得ざる無差別性惨虐性を有する本件爆弾を使用せるは人類文化に対する新たなる罪悪なり。帝国政府はここに自からの名において、かつまた全人類および文明の名において米国政府を糾弾すると共に即時かゝる非人道的兵器の使用を放棄すべきことを厳重に要求す。
(正漢字は現代風に改めた。出典:『朝日新聞』昭和20年8月11日)<ーこのソース未確認


August 10, 1945
A New-Type, Cruel Bomb Ignoring International law; Imperial Government
Protest to the Government of the United States.

 With regard to the attack by a new-type bomb on the city of Hiroshima by a B-29 bomber on the 6th inst. the Imperial Government filed the following
protest on the 10th inst. to the Government of the United States through
the Government of Switzerland, and gave instructions to the Japanese Minister to Switzerland, Kase, to make the explanation of explanation of the same effect to the International Committee of Red Cross.
 Protest against the Attack of a New-Type Bomb by American Airplane:
On the 6th of this month, an airplane of the United States dropped a new-type bomb on the urban district of the city of Hiroshima, and it killed and wounded a large number of the citizens and destroyed the bulk of the city. The city of Hiroshima is an crdinary local city which is not provided with any military defensive preparations or establishments, and the whole city has not a character of a military objective. In the statement on the aerial bom-bardment in this case, the United States President “Truman” asserts that they will destroy docks, factories and transport facilities. However, since the bomb in this case, dropped by a parachute, explodes in the air and extends the destructive effect to quite a wide sphere, it is clear to be quite impossible in technique to limit the effect of attack thereby to such specific objectives as mentioned above; and the above efficiency of the bomb in this case is already known to the United States. In the light of the actual state of damage, the damaged district covers a wide area, and those who were in the district were all killed indiscriminately by bomb-shell blast and radiant heat without dis-tinction of combatant or non-combatant or of age or sex. The damaged sphere is general and immense, and judging from the most cruel one that ever existed. It is a fundamental principle of international law in time of war that a belligerent has not an unlimited right in chosing the means of injuring the enemy, and should not use such weapons, projectiles, and other material as cause unnecessary pain; and these are each expressly stipulated in the annex of the Convention respecting the Laws and Customs of War on Land and artices 22 and 23(e) of the Regulations respecting the Laws and Customs of War on Land. Since the beginning of the present World War, the Government of the United States has declared repeatedly that the use of poison or other inhumane methods of warfare has been regarded as illegal by the pubic opin-ion in civilized countries, and that the United States would not use these methods of warfare unless the other countries used these first. However, the bomb in this case, which the United States used this time, exceeds by far the indiscriminate and cruel character of efficiency, the poison and other weapons the use of which has been prohibited hitherto because of such an efficiency. Disregarding a fundamental principle of international law and humanity, the United States has already made indiscriminate aerial bombardments on cities of the Empire in very wide areas, and it has already killed and injured a large number of old people, children, and women and collapsed or burned down shrines, temples, schools, hospital and ordinary private houses. Also, the United States has used the new bomb in this case which has indiscriminate and cruel character beyond comparison with all weapons and projectile of the past. This is a new offence against the civilization of mankind. The Imperial Government impeaches the Government of the United States in its own name and the name of all mankind and of civilization, and demands strongly that the Government of the United States give up the use of such an inhumane weapon instantly.

Note: Japan Branch of the International Law Association, Japanese Annual of International Law, 8, pp.251-2. (Tokyo: 1964) <ーこのソース未確認


 きちんと問題の所在を捉えて、感情的なことを言わずに「陸戦法規違反」と「非戦闘員虐殺」の観点から強く広島の原爆投下を非難している。戦後の日本政府は、サンフランシスコ講和条約によりこうした抗議を封殺されて現在に至っている。更に被爆者は、原爆被災のスミソニアン展示さえ禁じられる有様だ。

 米国大統領が国民を代表して、「原爆投下は過ちであった」と述べてくれたら、亡くなった15万人の被爆者への慰霊になり、被爆後遺症に苦しむ人達を始め日本国民は随分納得し、癒されると思う。仮に、「だが、今は核兵器廃棄出来ない状態にある」と言う言葉が続いたとしても。

(追記:8月30日)

 

ここに関連の外交文書がある。

 

戦前、日本で原子力爆弾開発がされていた、という動かぬ証拠はGHQが動画で残していますね。。 catalog.archives.gov/id/19351