やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

樋口レポートとインド太平洋構想(6)

トンガの火山噴火の件で日曜、月曜と予定していた樋口レポートのメモ書きができませんでした。粛々と進めたいと思います。

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いよいよ核心の樋口レポートです。今までも何回か読んでますがメモを書くのははじめてです。

全文は約45,000文字。まえがき、本文の3章、おわりに、そして要約を含む参考資料から構成されている。

本体の3章は下記の項目

1章 冷戦後の世界とアジア・太平洋

第2章 日本の安全保障政策と防衛力についての基本的考え方

第3章 新たな時代における防衛力のあり方

渡辺先生が書かれたであろう1、2章は約12,000文字。防衛省の方が書かれた具体策の3章は約18,000文字だ。

「まえがき」「おわりに」も渡辺先生が書かれたような気がする。この論文をはさむ前後の文章は重要で、本を読むときはいつも先に読む。

 

まえがきは以下の重い表現から始まっている。なぜこの防衛戦略が必要かを説明。

「日本国民が、第二次大戦のもたらした物的・精神的荒廃のなかから立ち直り、深い反省を心に秘めつつ、新しい日本を作り上げるための歩みを始めてから、やがて半世紀が過ぎようとしている。」

 

2段落には戦後の日本の安全保障体制が簡潔にまとめられている。

「・・・こうして、日米安全保障条約が、戦後日本の安全保障政策の現実的な基礎として選択されたのである。」

 

3段落目は経済復興に触れている。経済と防衛は切り離せない。

「・・・米国と協力しつつ、自国の経済的復興を成し遂げ、また半世紀前には戦乱と貧困にさいなまれたアジア・太平洋地域が平和と繁栄の地域へと変貌することに貢献してきた。」

 

4段落目 冷戦終結後の新秩序を検討する意義。「出発点」とは戦後か、明治維新まで戻るのか?

「・・・もう一度出発点に立ち戻って、将来の世界の平和と日本の安全保障の問題について、真剣に取り組み始めたのである。」

ここで思い出すのは矢内原忠雄の『帝国主義研究』に寄せられた「はしがき」だ。昭和23年2月16日のものである。矢内原も新渡戸も時々ドキッとするような感情的表現を書く。もし矢内原先生に聞けばし「出発点」は2.26と言うかもしれない。引用する

「すべての道を失うた者は、分岐点まで引き返し、そこにて正しき道を見出さなければならない。日本が正しき道によりて高きにいたるためには、日華事変以前、満州事変以前、否、2.26事件以前に目をかへして、そこに正道と邪路の分岐点を見出さねばならない」

 

5段落目 防衛力というのは安全保障政策の一部なのである。

「・・・新時代に即した安全保障政策の方向を示し、それに基づいて防衛力の新しいあり方について提言することが、本懇談会の課題である。」

 

「まえがき」だけでもかなり深い議論だ。次回は「おわりに」をメモしたい。