第1章は「冷戦の終結と安全保障環境の質的変化」と題し
- 冷戦の終結と安全保障環境の質的変化
- 米国を中心とする多角的協力
- 協力的安全保障の接続としての国連などの役割
- 今後の予想される4つのタイプの危険
- アジア・太平洋地域の安全保障環境の特徴
の5点が議論されている。渡辺昭夫先生の1994年時点の世界認識だ。
- 冷戦の終結と安全保障環境の質的変化
ソ連の崩壊が東欧社会、ワルシャワ条約機構の消滅につながったことが指摘され、「目に見える形の脅威が消滅し、米露及び欧州を中心に軍備管理・軍縮の動きも進展している一方、不透明で不確実な状況がわれわれを不安に陥れている。」と。そして予想し難い危機に備え、時期を失わず、敏速に対応、即ち新たな安全保障の出現に鈍感である事は許されない、と。
この新たな脅威が中国である事は28年後の今明確である。我々は時期を失い、鈍感だった事は否めない。
- 米国を中心とする多角的協力
まずは安全保障環境とは軍事力の様態と国際的諸制度であり、米国の優位は冷戦終結と共に堅固なものとなり、その米国を中心とした同盟ネットワークが日米同盟であり、NATOである。他方米国の経済力の優位は下がり、他の先進国・新興工業国との競争が激化するであろう。米国のリーダーシップは多角的協力、特に米国に協力すべき立場にある諸国の行動次第、と指摘。
これはもちろん現在のクアドにつながる日本、豪州、そして渡辺先生は想定しなかったかもしれないインドが入る。当然のことながら軍事力、経済力で米国に挑戦しているのは中国である。それでも28年前は中国を経済の面では支援しようとしてきたのだ。次に安全保障環境を支える国際的諸制度である国連の役割に続く。
- 協力的安全保障の接続としての国連などの役割
冷戦終結後国連の安全保障の仕組みが動き出した。その動きが継続するには安保理5大国と財政支援をする日独のG7の協調が重要と指摘。米ソの武力対決が消滅した一方で「世界の・・・国としてまとまりを欠いた社会基盤の脆弱なところ」等での紛争が激化していることを指摘。地域紛争処理が重要と説くが、この部分に関するその後の動きと評価はどうであろうか?
そして、経済的発展と軍事的衝突、特にアジア太平洋地域での利害関係の不一致と政治的不信の高まりをあげ、「政治的信頼関係を築き上げる努力が、安全保障の観点からも重要」と解く。
インド太平洋構想で、カバー範囲はインド洋まで広がったが、まさにインド太平洋構想の真髄がここにも見られる。インド太平洋構想と樋口レポートの違いは、30年近い年月が過ぎなければ、中国の経済的軍事的脅威を認識することができなかったことだ。