やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

アオテアロアの外交安保政策(1)チャタムハウスでのアーダーン首相演説

 

https://www.beehive.govt.nz/speech/pm’s-chatham-house

 

ツイッタースペースでも話しました。

https://twitter.com/i/spaces/1eaJbNnVzeoJX?s=20

 

ニュージーランド、アオテアロアの安全保障政策が変化している。それに気がついたのはアーダーン首相が米国を訪問しバイデン首相と会談し、かなり長い会見内容を読んだ時だが、本当は4月に来日し岸田首相と会談した時に気づくべきだった。最近のNATO訪問も話題を呼んでいるがその背景を知るとさらに興味深いニュージーランドの安全保障問題が浮き上がって来る。

どこから始めるべきか?まずは先日ロンドンで開催されたチャタムハウスでの講演を取り上げたい。人口500万のニュージーランドは小国であり、中国との関係をかなり強化している。その方向性が変わりつつあるのだ。

ヘレン・クラーク政権時代に政策スタッフであったアーダーンがトニー・ブレア政権時、英国に渡り短期ではあったが一時は母国と呼んだ英国で働いた話から始まる。そこには郷愁と異国というNZ豪州に共通してある入り混じった感情があることが伝わってくる。

そしてニュージーランドの外交・安全保障政策について自分の誕生の時に警官の父親がいなかった話を引用して説明。その時、南アフリカのアパルトヘイトにニュージーランドは反対し南アフリカのラグビーチームのツアーをボイコットする動きがあったのだ。そして1985年のレインボーワリアー爆破事件とそれに続くラロトンガ非核条約調印。日本が太平洋島嶼国政策で大きく一歩動いた時である。

そのような外交・安全保障政策の特徴を「非常に特殊なアプローチを取る」ことになったとまとめる。

We are, and have always been, inextricably linked to the actions of others. As a small island trading nation, we have always known this, and borne the brunt of that principle. And the consequence of that, is a very particular approach to foreign policy.

We are fiercely independent but we also look outwards. We actively seek relationships with those who share our values, whilst never losing sight of the importance of dialogue with those who don’t.”

「私たちは、これまでも、そしてこれからも、他者の行動と表裏一体の存在です。小さな島の貿易国として、私たちはこのことを常に知っており、その原則の矢面に立ってきました。その結果、外交政策に非常に特殊なアプローチを取ることになりました。

私たちは独立心が旺盛ですが、同時に外にも目を向けています。私たちは、同じ価値観を持つ人々との関係を積極的に模索する一方で、そうでない人々との対話の重要性を見失うことはありません」。

「そうでない(同じ価値をもたない)人々との対話の重要性を見失うことはありません」とは中国の事であろう。

 

次にニュージーランドがウクライナ支援をNATOと英国を通して行っていることが説明される。その意味を次のように語る。ここは英連邦、女王を君主とする国家である事を思い出させる。

The fact that much of New Zealand’s assistance is being delivered with, or indeed in, the United Kingdom, speaks to our commonality of outlook, our bedrock of trust and the ease we find in working together.

ニュージーランドの援助の多くが英国で、または実際に英国で提供されているという事実は、見通しの共通性、信頼の基盤、そして私たちが一緒に働く際の容易さを物語っています。」

そして、アーダーンのNATO出席を批判する声に応えるように欧州での戦争は太平洋の小国の問題であると強調する。

"Some may ask though what a war in Europe has to do with a small pacific nation. The answer, is everything."

さらに国連、WTO, WHO改革の必要性を強調。NZはすでに改革に着手しているのだ。そして英国のCPTTP参加について法の支配と野心的な貿易政策にコミットする世界第5位の経済国としての重要性を強調する。

20分近い演説の最後に「重点をおきたい」と述べているのは中国問題である。中国はニュージーランドや太平洋島嶼国の重要な、古いパートナーであると同時に南シナ海の件や最近の安全保障に関する太平洋島嶼国への関与も含め今後の動きを牽制する内容だ。assertiveはソロモン諸島との安全保障協定や王毅のアイランドホッピングのことであろう。

China, our number one trading partner, a country we have had diplomatic relations with since 1970s, has become increasingly assertive in our region.

1970年代から国交を結んでいる中国は、我々の最大の貿易相手国であり、この地域でますます自己主張が強くなっています。

Our engagement with a range of partners must continue, but under the banner of principles we can all agree on. And with an absolute focus on peace, stability, transparency and dialogue.

さまざまなパートナーとの関わりは継続する必要がありますが、原則の旗の下で、私たち全員が同意することができます。そして、平和、安定、透明性、対話に絶対に重点を置いています。

最後に英国とアオテアロアニュージーランドの共通性、異質性、をジョークを交えながらはなし、協力を促し、彼女の政治哲学で締め括っている。

一点コメントをすれば、太平洋島嶼国は70年代まで英国だった事である。トンガ、フィジー、キリバス、ツバル、バヌアツ、ソロモン諸島、ナウルは英国であったのだ。地域高等教育機関南太平洋大学は英国とニュージーランド政府によって作られた。豪州は入っていない。パプアニューギニアも。