やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

太平洋島サミットと海洋安全保障

今回の海上自衛隊インド太平洋派遣2021は、初めて太平洋島嶼国を訪れる。パラオとニューカレドニアだ。さらに9月2日、岸防衛大臣主催の日・太平洋島嶼国国防大臣会合(JPIDD: Japan Pacific Islands Defense Dialogue)がテレビ会議で開催された。

このように防衛省が太平洋島嶼国に関与するきっかけは、安倍政権のインド太平洋構想が背景にある。FOIPを太平洋島嶼国の海洋安全保障に結びつけたのは2018年の第8回島サミットであった。島サミットは初回から深く関与してきたが、この回は特別だ。前年に島嶼議連・海洋議連に立て続けに呼ばれ、古屋圭司議員、衛藤晟一議員から安倍政権のセキュリティダイヤモンド構想と太平洋島嶼国の海洋問題の関連性を問われ、その現状とニーズを説明する機会をいただいた。そして島サミットに海洋安全保障を議案に入れることを提案。

島嶼議連が速攻で提言書を作成し、当時の岸田外相と麻生財務相に提案したのである。

しかもフォローがすごかった。だいたいサミットで合意されてもフォローされない事が多い。当時の総理補佐官薗浦健太郎議員がオールジャパンで政府を率いて小国を回ったのである。

第8回島サミットでは「法の支配に基づく海洋秩序及び海洋資源の持続可能性」が設けられ。10項目に渡り合意がされている。そのうちの一つが海洋安全保障そのものである。

12 首脳は,太平洋における法の支配に基づく海洋秩序を確保するため,海洋安全保障及び海上安全の分野において緊密に連携する意図を再確認した。首脳は,国境管理及び警備を含む,海上安全及び海上法執行の分野における太平洋諸島フォーラム島嶼国のための能力構築の重要性を改めて表明した。この文脈で,安倍総理は,太平洋諸島フォーラム島嶼国並びにそれら諸国の既設の機関及び枠組みと連携して実施されるものとして,海上法執行及び北朝鮮関連の国連安全保障理事会決議の履行に関する太平洋島嶼国のための能力構築プログラムの立上げを発表した。

第8回太平洋・島サミット(PALM8)首脳宣言|外務省  より

 

今年第9回島サミットにはコロナに続く重点協力分野として海洋安全保障が挙げられている。

10 PALM首脳は、地域の平和、安定、強靱性、繁栄、海洋の健康及び資源の持続可能 性に貢献する、法の支配に基づく自由で、開かれた、持続可能な海洋秩序の重要性に対する 新たな、かつ、強化されたコミットメントを強調した。この目標を達成するため、PALM 首脳は、将来の世代が引き続き海洋を慈しみ、投資し、そして海洋から恩恵を受けられるよ う、入手することのできる最良の科学的情報に基づき、海洋及び海洋資源の持続可能な管理、 利用及び保全に対するコミットメントを改めて表明した。PALM首脳は、有害なプラスチ ック並びに核廃棄物、放射性物質、その他汚染物質、難破船及び第二次世界大戦の遺物によ ってもたらされる脅威から海洋を保護する重要性を強調した。PALM首脳は、地域的な政 策枠組みに留意し、海洋汚染や海洋ごみ、海上安全保障及び海上安全、違法・無報告・無規 制(IUU)漁業の撲滅、並びに互恵的な漁業取決めを通じたものを始めとする、太平洋に おける水産資源の持続可能な利用についての継続的な協力を歓迎した。漁業の持続可能な管 理を確保するために、日本は、1982年国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法に 従い、自国の排他的経済水域において水域に基づく管理を実施することに対するPIF首脳 のコミットメントに留意した。

 第9回太平洋・島サミット(PALM9)首脳宣言

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100207978.pdf より

 

前回との大きな違いは、太平洋諸島フォーラムの枠組みが外れていることである。これは大きな意味がある。海洋安全保障といっても島嶼国の能力には限界がある。米豪仏の海軍に頼らざるを得ない。そうするとフォーラムの枠組みでは米仏は入らないのだ。これを防衛省は理解しているかどうか。日・太平洋島嶼国国防大臣会合(JPIDD)には米仏だけでなく、英国、カナダにも声をかけている。

インド太平洋構想に積極的な、そして英領ピトケアンと英連邦国を太平洋多数持ち、Brexit以降「グローバルブリテン」を掲げる英国の参加は英国の専門家たちが反応した。新日英同盟を提唱するフィリップ・シェトラージョーンズ博士のコメントを求めた。

「以前、この地域の安全保障問題に対する英国の関与は、南太平洋でより強いプレゼンスを持つフランスに比べて遅れていました。今回のツアーでは、UK Carrier Strike groupは北太平洋に重点を置いてます。太平洋には英領のピトケアンや英連邦諸国が多数存在しており、英国の政策立案者は明らかに南太平洋にも注目しています。複数の専門家が、日本が主導する今回のこの地域の防衛会議に英国が参加することに反応しました。」

[Bookmark] A New Type of Britain-Japan Alliance | JAPAN Forward

仮訳 A new type of Britain-Japan Alliance by Dr Philip Shetler-Jones - インド太平洋研究会 Indo-Pacific Studies

 

 

9月2−4日実際にIPD21がパラオに寄港し共同演習が行われた。ニューカレドニアではもちろん仏軍との演習が行われるのであろう。できれば近隣のバヌアツ、ソロモン諸島、パプアニューギニアの海洋安全保障も、地元海軍、海洋警察だけでなく、豪州、ニュージーランド軍と協力して展開されることを期待したい。

最後に一言。2008年、私がミクロネシア海上安全保障事業を立ち上げる時、いつかは自衛隊が出てくる道筋を作っているのだと思い身震いした記憶がまだ残っている。あれから13年が経過。本当に自衛隊が出てきた。平時の派遣、演習であっても隊員の健康や命にかかわる事故や緊急事態は避けられない。安全な航海を心からお祈りするばかりである。

 

Japan Pacific Islands Defense Dialogue Joint Statement

https://www.mod.go.jp/en/images/e4b4d8b1ad510d146cab838b7f0a65ebbef9c99f.pdf

防衛省・自衛隊:日・太平洋島嶼国国防大臣会合