やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

Pacific Patrol Boat Programm

日米豪が中心となった海洋を総合的に管轄する国際機関の設立の必要性について笹川会長が世界初の発言をされた。

産經新聞の佐野記者も豪州に関心がある、という。

アンドリューズ豪国防大臣もこの6月日本を訪問し、安倍総理、中谷防衛大臣と会見している。

そこで、太平洋における豪州の活動といえば、Pacific Patrol Boat Programm 略してPPBP、これしかないので、そしてこのPPBPにつては多分日本では唯一人、イヤ肝腎の豪州人よりも知っているはずなので、散々書き散らして来たが、佐野記者に読んでもらいたく書いてみたい。

ちなみに「豪州人」より知っているというのは根拠があって、国防省の担当者も、国防委員会の議員もせいぜい2−3年のスパンでしかPPBPを見ていので、2008年から現在までの激動のPPBPの全容は把握できないのだ。

<豪州の太平洋安全保障政策を動かした笹川平和財団

2008年に開始したミクロネシア海上保安事業。

東京の財団の会議室。

渡辺昭夫運営委員長と私「オーストラリアには仁義切っといた方がいいですよ。」

羽生会長「オーストラリアなんか放っといていいよ。」

という会話がされていた時、まさにその時、FFA, SPCその他豪州の海洋ステークホルダーを繋ぐメーリングリストに激震が走った。

「笹川海軍が太平洋に侵入してくる!」(当方はこのメールを読んだ知人から聞いたので詳細は知りません。)

ちょうど2008年のこの年、長年続いたPPBPはもう辞めたい、お魚を護るのは海軍の仕事ではない、と国防省が政府に公開レターを出し、豪州軍撤退の動きを見せていたのである。新聞のニュースにもなっていた。

そこに、笹川海軍(って何?)が入り込む。豪州安全保障の、面子の危機!

信じられないかもしれませんが、これで豪州のPPBPは継続する事になったのだ。

しかも、その時笹川平和財団はただ支援すると決めただけで、どんな支援をするか具体案はなかった。で、逆に驚いたのはこちらの方。「支援する、って言っただけなのに〜。」

後々、ウーロンゴン大学のチャメニ教授から感謝された。

「あの時笹川平和財団が動いていなければ、豪州政府は本気にならなかったでしょう。財団が動いて本当によかった。」と。

日本外務省も、今では全面協力姿勢を示していただいていますが、当時は米豪外務省とつるんであらゆる手段で財団の動きを阻止しようとした。当時豪州は親中のラッド政権だったし。

それはそうだ。太平洋の安全保障の一番核心の部分に、民間団体が突然入り込んで来たのだ。

「なんで民間団体が海洋安全保障をやるのか?」

米豪からのこの質問は最初答えられなかったが、今でははっきり

「あなた達に戦後手足を縛られた結果です。」

と戦後の日本の安全保障体制から説明している。米豪とも人の手足を、WGIPまで使ってマインドまで縛っておいて、すっかり忘れているのだから全くお話にならない。

<ていたらくなPPBP>

豪州海軍が、PPBPがていたらくである事は、豪州人自らが語っているところで、決して当方だけの見解ではない。

PPBPの起源は太平洋島嶼国のEEZ制定。70年代のEEZの議論の中で、フィジーのカミセセ•マラ首相以外はそんな広大な海洋は管理できない、と後ろ向きだった。しかし豪州は島嶼国にEEZを持たせたかったのであろう。多分伝統的安全保障の観点と、漁業資源確保の観点から。

島嶼国からの要請を受けて、という形で各島嶼国に1から3隻の警備艇を供与し、豪州海軍アドバイザー、技師等を1−3人配置。

さらに、島嶼国の人材育成は、南極近くのタスマンまで招聘して現地の海洋学校で行う。

船が壊れたらケアンズまで引っ張ってきて修理。これに数ヶ月かかる。

結果、船は港に繋がれたまま。

なぜか?

船を動かす人材も少ないし(パラオは20人)、能力もなかなか向上しない。しかも島嶼国政府は常に財政難で、燃料代が払えずイザという時に船が出せない。

太平洋で唯一の海洋安全保障体制のPPBP。笹川平和財団が動き出す2008年頃までは年間30日前後しか運行していなかった。

今は改善されて60日間前後。

豪州政府のマネージメントも問題が多い。

2008年以降、お魚を護るのは軍隊の任務ではない!という意見が主流で、国境警備局等の法執行機関を中心に再編が検討された。が、豪州の海洋法執行機関には経験も、人材も、知識もなく、無駄に数年が過ぎました。

そして結局PPBPは国防省の担当に、元の鞘に納まった。

<海軍に魚は護れるか?>

水産庁の取締船パラオ派遣の件で、昨年から水産業の、違法操業の事をじっくり学ばせていただいている。

結論から言うと、海軍に違法操業は取り締まれないのである。

公海でたまたま通りかかった怪しい船を検査する程度であろう。

だから豪州海軍の判断は正しかったのだ。しかし豪州に米国に水産庁も違法操業取締船もない。(あるかもしれないが、大した事はない。)

水産庁の存在も、水産庁による取り締まりも、そもそも遠洋漁業自体が日本の十八番。

しかし、それもこれも、みんな米豪のせいなのよ、と教えてあげている。

白豪主義、排日主義のせいで、何万人もの日本人が(主に沖縄から)ミクロネシアに移民し、狭い島だけなく広大な海洋の漁業資源を開拓した。

戦後、農林省の一部局だった漁業局を庁にしたのもあなた、水産省にしろ、と言っていたのですからね。

戦後、あなた達が日本の軍事力の手足を縛ったために、法執行機関の海上保安庁水産庁が強くなったのです。

戦後、あなた達が日本の軍事力の手足を縛ったために、民間財団が海洋問題を一手に引き受けて来たのです。

皮肉な事に、海洋の法による支配を主張する現安倍政権にとって、戦後の日本独特の法執行を中心とした海洋安全保障体制はピッタリなのではなかろうか。