やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

やっぱり気になるPPBP

2008年5月、笹川平和財団ミクロネシアの海洋安全保障をやろうと決めたのは、偶然にも冷戦後太平洋の海洋安全保障をPPBP(Pacific Patrol Boat Program)で一人守ってきた豪州王立海軍が、「もうやってられまへん」と宣言したのと同時だった。

このあまりの偶然に、豪州及び太平洋は一瞬騒然となった。笹川軍団が日本が侵略して来る、という嘘のような噂が流れた。そして豪州はすったもんだの挙げ句、方向転換をしてPPBPを継続する事になったのである。(詳細は弊ブログをご参照ください。http://blog.canpan.info/yashinomi/archive/834

しかし、あんな大きな船を島嶼国に供与しても燃料代もないし、メンテもできない、動かす人もいない。それに豪州自体、好景気を支えていた鉄鋼業が頭打ち。つい最近も唯一の自動車産業が廃業(ホールデン)でも政府は打つ手なし。加えてドル高の影響で輸出産業も期待できないという典型的オランダ病。そんな豪州政府に、新たに22隻もの船を製造する金があるの?という疑問はあった。

答え。ないらしい。正確には上記の疑問の解決策はまだないらしい。

オーストラリアらしい、と言えばオーストラリアらしいが、こんないい加減でいいの?

最近、豪州海軍のこのPPBPの将来を検討する方とお話しする機会があった。

私「豪州海軍は1万3千人。日本の海保と同じくらいなのですが、これで太平洋、アジア、インド洋まで守ろうとするんですから、量より質ですよね!やっぱ!」(リップサービスも兼ねて)

豪州海軍「1万3千?、フフ。いや今はどんどん減って1万1千になっている。それに軍事力は量である。先日ニュージーランドの潜水艦を動かす人員が足りず、我豪州海軍から8名ほど派遣したばかりである。」

私「そっ、そうなんですか!(どうつくろうか迷った挙げ句)まあペンギンははミサイル飛ばしてきませんし、アラザラシは核開発する可能性ないですからね!」ジョークを飛ばし笑ってもらえた。

オランダ病どころではない。豪州の軍事力は弱体化しているのではないか?

脅威は人間を強くする。ここが日本と、ペンギンやアザラシしかいない南極近くのオーストラリアと違うところ。

日本の海保の人員は増加傾向のようだし、防衛省、海保とも予算は増額の傾向。それどころか、フィリピン、ベトナム等々近隣諸国への海洋安全保障能力強化支援を安倍首相自ら表明している。

弱体化するオーストラリアをほっとけ、という訳にはいかないと考える。

前述した通り、日本がしかもNGOが何かやる前から、豪州はパラノイア的に反応するのだ。戦前からある日本への脅威は払拭されていない。

加えて戦後沈黙を守ってきた(強いられてきた?)日本と違い、豪州は太平洋島嶼国の親分としてのさばって来た歴史が、意地が、プライドがある。これを刺激しないように日本は太平洋に出て行く事が肝腎だ。ビスマルク的バランサー感覚とでも言いましょうか。

偶然今朝見つけたオーストラリアの海洋安全保障専門家のアンソニー•ベルギン節。

「MIKTA? MIKATって何よ。オーストラリアをメキシコ、トルコ、インドネシア、韓国と一緒にしないでよ。豪州外務省に自尊心の欠片もないの?? 」と怒り狂っている。

豪州のプライドを見せつけられた感じだ。

MIKTAとはRepublic of Korea, Mexico, Indonesia, Turkey and Australia 今年の国連総会で形成された"ミドルパワー”諸国グループらしい。