やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

太平洋地域の海洋安全保障の新秩序 ― Regional Maritime Coordination Center(2)

<始まりはBateman/Berginペーパー

Special Report Issue 12 - Australia and the South Pacific: Rising to the challenge、14 MARCH 2008, By Anthony Bergin, Graeme Dobell, Stewart Firth, Satish Chand, Andrew Goldsmith, Bob Lowry, Bob Breen, Sam Bateman and Richard Herr

  2008年3月、オーストラリアの政策研究機関、Australia Strategy Policy Instituteからスペシャルレポートが発表された。この中のBateman/Berginペーパーで始めて太平洋の海洋安全保障全体をカバーする、即ち漁船の違法操業だけではないRegional Maritime Coordination Centre(RMCC)が提案された。犯罪活動、海の安全に関する情報収集、分析、発信活動を地域協力で実施する案だ。

 

<ばらばらに活動する地域機関>

 現在太平洋の海洋安全保障を管理するのは各国の警察機関が実施するPPBの他に次の地域機関がある。しかしそれぞれが充分な協力関係にはない。

 1) IUU監視

Forum Fishries Agency (FFA)

Western and Central Pacific Ocean (WCPFC)

2) 船舶港湾安全

SPC-Regional Maritime Programme (RMP)

3) 越境犯罪

Oceania Customs Organisation (OCO)

Pacific Transnational Crime Coordination Centre (PTCCC)

Pacific Islands Chiefs of Police (PICP)

Transnational Crime Units (TCUs)

Pacific Immigration Directors’ Conference(PIDC)

 

<RMCCの役割>

 そこでBateman/Berginが提案したのがRMCC である。FFAもコーディネーション・センターの案を進めているが、これは漁船の違法操業を管理するものある。前者は違法操業だけでなく、越境犯罪、船と港湾の安全も含む。

  MRCCの基本的活動は下記の7点。

1) 全データの収集、分析

2) 地域の航空船舶の管理と日程調整

3) 域内国からの海洋監視活動時期の情報収集

4) 域内各国への海洋管理活動に関する提案

5) 地域機関、域内各国のアセットに対する調整

6) 援助機関及び各国からの支援金の調整

7) 各国の‘points of contact’としての連絡係

 

<RMCCの機能>

 RMCC はオペレーションセンターとマネージメントグループの2つの機能にわける。

 オペレーションの方は法執行に関する支援を行う。マネージメントの方はThe Forum Regional Security Committee (FRSC)と連携を取りつつ地域海洋監視戦略の開発と維持に努める。

 Bateman/Berginはオペレーションセンターはソロモン諸島にあるFFA内に、マネージメントグループはRMP、OCO、PTCCC、PIDCがあるフィジーのスバに置くのがよい、といしている。

 

<RMCCの情報収集、分析、発信>

 RMCCの重要な機能が海洋監視活動に関するデータの収集、分析、発信である。オペレーションセンターがその機能を担うことになると思うが、VSMが提供するデータ以外はスバが持っているのでマネージメントグループがその機能を担う可能性もある。

 データの情報源は下記の通り。

• VMS data from the FFA and WCPFC.

• Data on other types of illegal activity from the PTCCC, OCO and PIDC.

• Shipping movement reports from regional port authorities.

• LRIT and AIS data as available.

• Information on cruising yachts from the OCO.

 

<RMCCの資金とガバナンス>

 RMCCの活動を支える資金源としてRegional Maritime Surveillance Trust Accountの設置を提案している。アジア太平洋の先進国、及び世銀、アジア開発銀行、GEFからの資金提供の可能性を検討、とのこと。

 RMCCのガバナンスはフォーラムリーダーが仕切る。他にアドバイザリー委員会を設置し関係諸国や利害関係機関が参加。

 フォーラムに権限を持たせる事で、各国の主権を維持することになる。

 

<RMCCへの豪州の関与>

 最後にRMCC設置に向けて、豪州は今まで通り海洋管理分野に資金を投入し、人材育成を継続すべきとある。そして、国防省中心の支援からwhole - of- government、政府一丸のアプローチをすべし、と強調。

 さらに、フランス、ニュージーランド、米国のみならず、中国や日本との協力も必要で、地域協力による、国際法に則った「海の秩序と法」「航海の自由と安全」が究極の目的である、と締めくくる。

 

<コメント>

 2010年3月、東京で開催されたミクロネシアの海上保安会議では、豪州政府代表がミクロネシア3国だけを集めて打ち合わせをしていた。

何を言ったか。

ババウ宣言を尊守するんだぞ。」

即ちフォーラム中心、日本にイニシアチブを取らせるな、と釘を刺したのである。

 本会議での豪州の態度も同じであった。そこで議長を努めたミクロネシア連邦のイティマイ運輸通信大臣が「豪州は口出しするな。ミクロネシア3国の主権を無視するのか。」とタンカを切ったのである。

 

 Bergin/Batemanペーパーはフォーラム中心である。乱暴に言ってしまえば豪州が仕切る、という話だ。前回書いた通り、ミクロネシアの地域協力が形成されてきた背景には、フォーラムの即ち豪州のアジェンダと、ミクロネシア3国のアジェンダの「ずれ」がある。

 しかも、フォーラムメンバー国でない米国がこの地域の安全保障に大きく関係していることを考えると、Bergin/Batemanペーパーのフォーラム中心主義の部分は若干の検討を要するのではないか。即ちミクロネシアのRMCCの政治的ポジションは特別時間をかけて、関係者と調整して行く必要がある。

 

追記:Bergin博士はミクロネシアにサブリジョナルのRMCCを設置することに賛同を示している。またANCROS所長のチェメニ教授はサブリジョナルRMCCを、ミクロネシア、ポリネシア、メラネシアに設置したらどうか、とコメントしていた。