舌の数
パラオ出張中、海上保安庁から出向されている山川孝之さんとお話しする機会があった。ミクロネシア海上保安事業で、肝心の日本の海上保安庁のことを未だよく知らない。
山川さんは前日ペリリュー島に行かれたばかりで、その美しさに感動されていた。
「本当に美しい島でした。島の人たちもいい人ばかりで、マツタロウとか日本の名前を持っていて、みんな親日的ですね。」
「ペリリューはマリファナ作っているんですよね~。」
「えっっ!」
山川さんは俄に信じ難い様子だった。
島人の2枚舌の話もしようかと思ったが、初対面でそんなネガティブな話ばかりしたら、印象が悪くなると思って黙っていた。
でも、仕事をする上で大事な話なのでここに書く事にした。
島社会に人脈ができて、欧米人とも付き合う様になると直わかる。
日本人が来れば、私の息子は太郎という名前です、と言い、アメリカ人が来れば私の息子はジョンです、と言う。
その位のしたたかさを持っている、ということだ。
守屋さんの『普天間交渉秘録』はまだ読んでいないが、沖縄の人の2枚舌を批判している、という。これを琉球新報元副社長の三木さんが、弱者が強者に対抗する手段、と軽く往なしている。
私も2枚舌をネガティブに捉えていたが、高坂正嶤氏の『海洋国家日本の構想』にエリザベス1世のことが紹介されており、目から鱗だった。
その勝利は英雄的行為によって生じたものではなかった。事態はまさにその逆であった。エリザベスの生涯を支配した大政策は,これ以上ないというほど非英雄的なものだったのである。そして彼女に関する真の歴史は,国政にあたって芝居がかった派手なことが好きな連中への不易の教訓となっている。実際,彼女の成功は,そらっとぼけ,日和見,優柔不断,のろま,吝嗇,といった英雄の持つべからざる資質のお陰なのである。
(リットン・ストレイチー著『エリザベスとエセックス』)
島嶼国の行動様式はエリザベス1世に通じるところがある。スペイン、ドイツ、日本、アメリカと500年近い支配を受け、なお独自の文化を残し、主権を勝ち得たミクロネシア3国。
小国と侮るなかれ。
(文責:早川理恵子)