やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

年間20億円でできる海洋国家日本の太平洋への貢献

水産庁取締船。以下3隻はWCPFCの公海監視船に登録され、既に太平洋での活動実績がある。よって現在までの経験をさらに拡大する可能性、効果、影響は大きい、と当方は考えている。

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東光丸 86.90m

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白竜丸 84.22m
 

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照洋丸 87.60m

<海上保安庁が出て来れない!>

2008年、ミクロネシア3カ国を対象に海上保安事業を検討したい、と羽生前会長から伺った時、「手足はどうするんですか?」と質問した。 ミクロネシア3カ国の地域協力の枠組みは、太平洋島嶼国基金が渡辺昭夫運営委員長時代に支援してきた。引き続きこのミクロネシアの枠組みを支援する事を羽生氏に提案したのは当方である。しかし日本からの支援、というのはなかなか難しい。海洋の法執行分野で日本は何ができるのか?

「海上保安庁が出て来る。」

元国交省審議官の羽生氏が言うのであるからその可能性はあるのであろう、とその時は思った。 しかし、尖閣問題がほぼ同時発生し、海上保安庁がミクロネシアに出て来る余裕などなくなってしまったのだ。(現在は海保OBの協力を得ている。)

 

<パラオ、シーシェパードの支援受ける>

そうこうする内に、パラオは2011年、大統領がシーシェパードの海上監視支援を受ける事で合意してしまった。この後の当方の動きは以前書いた。 この合意を破棄させることに成功したが、状況は変わらない。日本の海保が出て来れないのであれば、代替策は? オバマ政権の太平洋へのコミットメントもほぼ実態がない。(グアムの沿岸警備隊(以下USCG)の実態も以前書いた通り) 豪州の努力は認めるものの、太平洋パトロールボート事業はほぼ機能していない。(豪州王立海軍は魚を追いかけるのは海軍の役目ではない。止めたい、と2008年に公式文書を出している。)

私が立ち上げた日本財団・笹川平和財団の支援に刺激され米豪も動き出しパラオの海洋警察の能力を強化した。それでも人口1万3千人の小国が、その60万平方キロメートルを守る海上保安能力は限界がある。 そこで水産庁に取締船派遣を嗾け、協力した事は以前書いた通りである。

 

 <ベストソルーションはシップライダーズ>

ミクロネシア3国から要請を受け、当該地域の海上保安支援事業を具体的に開始する事になり、米豪の政府関係者との協議を開始した。 USCG、豪州王立海軍から、船を島嶼国に供与しても現地の管理運営が難しい。ベストソルーションはシップライダーズだ、とのコメントを何度も聞いた。 実際、EEZ制定とほぼ同時に開始した豪州政府の太平洋パトロールボート事業は、今止めたら供与した監視艇が何に使用されるかわからないので止めるわけにいかない、という意見も漏れ聞いた。即ち中国が使用する可能性も捨てきれない。島嶼国政府はシーシェパードともいとも簡単に手を組むのは目の前で見せつけられている。船の供与は様々なリスクも伴うのである。 シップライダーズは、監視艇に島嶼国の法執行官を乗船させ管轄地域の監視を行うもの。船の管理運営を島嶼国政府がする必要もないし、実際の監視活動は基本的に島嶼国の法執行官が行うが、さまざまな支援を受けることができる。(パラオではUSCGが直接法執行行う合意があると聞く) これを昔から進めているのがUSCGだ。

下記の資料によると、USCGがシップライダーズ協定を締結しているのがCook Islands, Kiribati, Marshall Islands (Republic of), Micronesia (Federated Statesof), Nauru, Palau, Samoa, Tonga, Tuvaluの9カ国。昨年11月にバヌアツとの協定を結んでいるので10カ国になっているはずだ。

 

 

<年間20億円でできる日本の太平洋海洋安全保障支援>

しかし、USCGのシップライダーズの実態もそれほど期待できるものではない、と島嶼国高官から聞いた。先にパラオのニュースを紹介した通り年に数回小規模なものでしかない。トランプ政権に変化が期待できれば良いか、まだ未知数だ。 そこで提案したいのが、現在パラオで実施されている水産庁取締船シップライダーズの拡大である。 上記に並べた2千トンレベルの監視艇は1月1500万円。年間で1億8千万円。 監視艇10隻ほどを太平洋に配置したらそれは大きな効果が得られだろう。即ち年間20億円で海洋国家、太平洋国家、漁業先進国としての日本の責任を果たす事になる。 しかもシップライダーズだ。島嶼国の法執行官を乗船させる事で島嶼国の人材育成、日本と太平洋島嶼国との信頼構築にもつながる。ついでに豪州海軍やUSCG、PACOMにも乗船してもらったらどうだろうか?彼ら漁業の事を知らない。日米豪の広義の安全保障協力を強化する事にもなる。 パラオの水産庁監視船派遣は今のところ年間2月適度だが、その効果は計り知れない。 水産庁は監視活動の情報は非公開との姿勢であるが、今太平洋島嶼国で話題となっているベトナムのブルーボートと呼ばれる違法業選を発見したのは水産庁の取締船なのだ。2014年の事である。 上の写真3隻はWCPFCの公海監視船に登録され、既に太平洋での活動実績がある。よって現在までの経験をさらに拡大する可能性、効果、影響は大きい、と当方は考えている。

 

<水産庁、外務省は至急米国との対話を>

ただ気になっている事がある。 日本政府は2国間支援基本だが、ミクロネシア3国は独立国であっても安全保障は米国が管轄しているのだ。例え法執行であっても日本政府は当然米国と情報交換をしておくべき案件である。 日本のイニシアチブが成功したのも、最初に米国との調整を行ったからである。2008年11月のミクロネシア大統領サミット合意の後、3カ国の大統領から米国政府に財団からの支援を要請する事を通知するよう私からミクロネシア3カ国政府に提案。すぐにクリストファー・ロバート・ヒル国務次官補(当時)からその事を了承する手紙が来たのである。(日本の違法漁船取り締まってね、という嫌みたっぷりの)その後もワシントンD.C.、キャンベラとの協議を重ねて来た。 外務省は米国とミクロネシアの関係を知らないわけないので釈迦に説法とは思いつつもこのブログは外務省も読んでいるとのことなので、書いておきたい。