やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

マーシャル諸島ーレビュー 1.「土地問題と大統領」

  この春発行されたThe Contemporary Pacific(Volume 23, Number 1, Spring 2011), Micronesia In Reviewのマーシャル編を、多少解説を加えながらまとめました。

 

 米国と自由連合協定を締結するミクロネシア3国。

 米国の軍事的アクセスを認める代わりに長期の援助資金を受ける仕組みであるが実際に軍事施設を持っているのはマーシャル諸島だけである。

 クワジェリンにあるロナルド・レーガン弾道ミサイル防衛試験場だ。

 核実験場となったのもマーシャル諸島だけである。

 このクワジェリンの土地借用料の問題がここ数年続いた政治的不安を導く結果にもなっている。土地は伝統的酋長に属し、借用料は酋長に入るのである。

 マーシャル諸島は酋長の力が他の2つのミクロネシアよりも絶大である。

 この背景がわかると、マーシャル諸島の政治が少しわかりやすくなる。

 

 クワジェリンの大酋長故アマタ・カブア初代大統領を継いだのが従兄弟のイマタ・カブア2代目大統領にして大酋長。この2代目を破ったのがマーシャル諸島共和国3代目大統領(2000-2008)、ケサイ・ノート。民間人である。(右写真:ノート大統領)

 ノート氏はマーシャル諸島の多くの人々がアメリカに留学する中、パプアニューギニアの大学で学んだ。農業経済が専門。ソマレ首相などパプアニューギニアの政治リーダー達との出逢いが、彼に独立の精神を植え付けたという。(注1)

 パプアニューギニアは血統による酋長制ではなく、優秀な者がリーダーになる社会だ。通称「ビッグマン」と言う。

 
 さて、クワジェリンの土地所有者の権限を軽視し、米国との交渉を進めたノート大統領。勿論大きな反発を招いた。彼の3期再選を阻止したのがリトクワ・トメイン第4代大統領。カブア大酋長がトメイン候補を支援した。(左写真:トメイン大統領)

 しかしトメイン大統領はカブア酋長達の思惑通りに動かなかった。結果トメイン大統領は就任翌年2009年10月、不信任決議を受け辞任に追い込まれる。

 5代目チューレラン・ゼドケア現大統領は首都マジュロの大酋長である。トメイン政権の閣僚をほぼ全員引き継ぐことを条件に大統領に就任。

 今思い出すと、そうか、だからあの時大統領ではなくてデブルム外務大臣が出て来たのか、等符合することが多い。それでもこの複雑な政権の動きはなかなか理解できない。

 敢えてまとめれば、テオクラシーとデモクラシーの対立。それに加えて酋長間の確執。そこに米国の巨大な軍事関連予算が振りかけられれれば、事態はより複雑に深刻にならざるを得ない、と考える。

  そして、今月(2011年5月)初旬、マーシャル諸島に一大ニュースが流れた。8年間棚上げされていたクワジェリンの土地使用料値上げ交渉の解決だ。

 同時に空港拡張を始め滞っていた米国からの支援事業が大きく動きだした。

 「太平洋のスラム」と言われたイバイ島。クワジェリンから追い出された1万5千人が360,000 m²の土地にが居住。ここのインフラ整備も実施される。

  写真 イバイ島 

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注1 PACIFIC MAGAZINE, November 2001,Giff Johnson, ”How Kessai Note Defied Tradition to Become President - The new face of leadership in the Marshalls",