やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「移動する太平洋の島の人々」(7)

(2012年1月琉球大学国際沖縄研究所のご招待で講演させていただいた内容を同研究所の許可を得て掲載させていただきます。)

「移動する太平洋の島の人々」(7)

琉球大学国際沖縄研究所:IIOS レクチャーシリーズ2011第6回

2012年1月10日(火) 18:00~19:30 (於てんぶす那覇4Fテンブスホール)

 次に、EEZのことをお話ししたいと思います。世界地図で見ると太平洋の島々というのは小さな点でしかありません。しかし、1994年に発行された国連海洋条約の中で制定されている200海里によって、太平洋の小さな島々は広大な海洋権益を手にすることになりました。ちょっと見づらいのですが、オレンジの部分がミクロネシア連邦です。ミクロネシア連邦と隣のパラオ、そしてマーシャル諸島、これらを合計したEEZが約600万平方キロメートルと言われています(スライド16)。日本は450万平方キロメートルで、世界の第6位です。

 ただ問題はこんなに広い海洋を誰がどうやって管理し、守るのかという課題が挙げられています。現状は全くの無法地帯と言っていいと思います。現在私が担当しているのがミクロネシア地域の海洋安全保障をどうするかといった話なんですが、私たちが行く前は、オーストラリアがこの広い太平洋地域に海軍のオフィサーを一人送って、あと大きな船を送って、支援しようとしていました。ただ島嶼国政府には燃料代がないんです。あとは地元で船を修理したり操作したりする人たちもなかなかいない。この地域の海洋安全保障が守られている現状はありませんでした。 

 違法操業以外にも麻薬の売買ですとか、人身売買、それから違法移民といった多くの違法行為がこの地域で行なわれていることが指摘されています。

 「南の楽園」というイメージが強くこんな国際犯罪とは関係ないと思われているのではないでしょうか?

 ナウルではロシアのマフィアのマネーロンダリングが行なわれていましたし、確か4、5年前にはフィジーで南半球最大の麻薬工場が発見されたといったこともあります。小さな国々ですから法律がゆるいので、そういった越境犯罪が発生する可能性も大変大きいということは事実です。

 ところでこのEEZなんですが、今日ちょっと大城先生とお話をしていて、実は世界第6位の日本のEEZの60%が日本の離島によって形成されているものだそうです。つまり北海道と本島と四国と九州が形成しているEEZは40%、あとの60%はこういった小笠原諸島ですとか沖縄の諸島が形成しているものだそうです。数字を探したのですけれど見つからなかったのですが、多分沖縄県が持っている島々が形成しているEEZというのはかなりのパーセンテージになるのではないかと思います。そこを是非沖縄の方たちは、特に県庁の方たちは強調されたほうがいいのではないかと思います。

 最後になりますが、限られた資源の島にとって、移動の自由というのが大変重要なのではないかと考えます。一つには先ほど言ったように人口の問題ですね。小さな島々で人口を吸収するようなところはありませんから、やはり外に人口が流れていくシステムが必要なのではないかと。そうでないところは都市に人口が集中して社会的不安を招く結果にもなるのではないかと思います。もう一つは限られた資源の中で、やはり外へ向かって人間が活躍、社会活動ができる機会が必要なのではないかと考えます。

 ただ日本人だとなかなか分からないのですが、独立国となった後でも海外に出るというのはなかなか難しくて、まず多くの島嶼国ではビザが必要です。そしてパスポート、それから飛行機代。日本人だとビザを必要とする国はそんなにありませんが、太平洋の方たちと付き合っていると、海外にでるにはまずビザが必要で、訪問国の招待状のようなものがないと取得できません。いつ何の目的で誰に呼ばれて行くのかといった書類を訪問国からもらって、現地の日本の大使館に行かなければならない。ビザをもらって、さらにパスポートを手配して、高い飛行機代を払ってこなければならない。

 そういった中でやはり自由連合協定とか、もしくはグアムや北マリアナのようなアメリカ領、大国の領土としてとどまるということは、ひとつの島のあり方だと思います。

 あとこのウィキペディアからとった写真なんですが、このスライドをお見せして今日は終わりたいと思います。

Kwajerin.png

 これはどこだかご存じでしょうか。マーシャル諸島のクワジェリンです。ここにアメリカ軍の迎撃ミサイル基地があります。ミクロネシア3国は先ほど申し上げましたとおり、米国との自由連合協定を結んでおり、米国の軍事的アクセスを許しております。現在私が知る範囲では、このミクロネシア3国の中で実際に米軍の基地があるのはマーシャル諸島だけです。マーシャル諸島がどういった条件でこのクワジェリンを貸しているかというのを調べたんですが、このクワジェリン環礁には島々がいくつかあります。このクワジェリン環礁をこの米軍に貸すことによって、年間1900万ドル、約80円で計算して年間15億円の費用が、この土地の所有者、酋長に入ってきます。そしてこの契約が2066年までです。15億円というのは、マーシャル諸島の年間の国家予算が約150億円ですから、10%にあたります。マーシャル諸島の国家予算150億円の70%が米国と台湾からの支援なんです。マーシャル諸島の人口が約5万4000人です。これがマーシャル諸島の現実でもあります。

 マーシャル諸島は有名なビキニの核実験がありましたので、その保障も米国から現在も受けています。米国の軍事アクセスへの代償ととして島の人々の移動の自由が確保されている、という現実がありまうす。

 このあたり、沖縄と関係してくるのではないかと思うのですが、冷戦が終わって安全保障が多角的になってきましたので、軍事以外のいろんな安全保障を考えることができるのではないかと考えています。これは沖縄だけの問題ではなくて、ミクロネシア3国、あとはグアム、マリアナも同じような状況です。彼らもなかなか経済的には厳しく、沖縄の米軍にのどから手がでるほど来てほしいという声も聞きます。パラオではアンガウル島という、まさにグアノの燐鉱石を掘りつくした島がありまして、そこを普天間の代替基地にという国会決議を2度も採択しも同国の大統領がオバマ大統領に頼みに行っています。そういった状況がミクロネシアにはあります。

 そういったミクロネシアの現状をお伝えして、今日はこれでお話を終わりたいと思います。

 どうもありがとうございました。