やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『魚のいない海』

『魚のいない海』

フィリップ・キュリー, イヴ・ミズレイ著、 勝川俊雄監訳, 林昌宏訳

エヌティティ出版,2009年

「国際テロ組織を退治しろ」

 この春、突然こんな指示があった。

 詳細は書けないが、急遽情報収集をする中で、まともに相手にすべきではない、と判断し「江戸の敵を長崎がとる」方式で水面下工作を進めた。

 この「江戸の敵を長崎がとる」とは敵を自分以外の人に退治させる、という意味。解説が長崎新聞のコラムにあるので、ご参照下さい。

 で、長崎を誰にするか悩んだ末、メインは我々の同盟国でもあり当該国に影響力が強い米国。周辺を豪州、某島嶼国、それに国際機関と、各種圧力団体にターゲットした。

 現場の交渉は最後は「勘」である。後は「度胸と愛嬌」。どのタイミングで、誰に、どんな情報を流すか。ウーウーうなりながらの1、2週間の勝負だった。殆どギャンブルの世界。吉と出るか、凶とでるか。

 結果は期待以上で見事テロ組織は退散。その後訪ねた米国某政府機関では「あなたのメールがよく回ってきたわ。」と言われ、米国を長崎に仕立てる事に成功した事を一人喜んでいた。

 さて、前置きが長くなったが、まずは敵を知る事が重要である。海賊にしてもテロにしても「ぬすっとにも三分の里」の通り、海賊・テロ行為に走るそれなりの理由がある。

 海洋問題に関わるこれらの行動で無視できないのが「漁業資源」。魚の勉強をやっぱりしなければと、今魚関係の本が目の前に10冊程積んである。

 早速勝川先生監訳の既に古典的存在『魚のいなくなった海』を読んでいる。

 取りあえずパッパッと10冊読んで、全体像を掴み、後で熟読しようと思っている。

 魚の話だからではないが、この『魚のいなくなった海』。まさに目から鱗の連続。

 ヨーロッパ人は魚をあまり食べない、という偏見があったが、彼らこそ鱈を、鯨を、世界の海から取り尽くした犯人だったのだ。しかも、アイスランドとイギリスは漁業資源を巡って「鱈戦争」なるものまでやっている。

 それから海の本を読むと、グロティウスの『海洋自由論』が当然のように書かれている。彼がこの理論を展開する背景にはオランダが海洋国家としての地位を独占するためのイデオロギーを支持する目的があったのだ。これに対抗するのがイギリスのセルデンが軍事力に基づいたコンセプトを展開した「封鎖海論」。知らなかった。

 そして、漁業資源の量。いったいこの広い海洋に泳ぎまわっている魚の数をどのように計算するのだとう、と素人ながら不思議に思っていた。そうしたらやはり学者の世界でも意見は噛み合ないようだ。しかも、自然を愛したゲーテが指摘した様に、海洋生態系は「人々が思い描くより複雑で」その原因を特定する事も難しいらしい。学者の議論は続いている。

 最後にこの本でも指摘され、監訳の勝川先生のブログに書かれていたが、漁業者と海洋学者の歩み寄りが必要なようだ。これを実現する試みがシーフードサミットで、2012年香港で開催される予定だそうです。